8月15日、『ちびまる子ちゃん』などの作者である漫画家のさくらももこが乳がんのため死去した。国民的人気作家の突然の訃報は日本中に衝撃を与えた。享年53歳、あまりにも早すぎる死だった。
『ちびまる子ちゃん』は1990年にアニメ化されたのをきっかけに大ヒット作へと成長していった。アニメの主題歌である『おどるポンポコリン』は原作者のさくら自身が作詞を手がけ、レコードからCDの時代に入って初めてのミリオンセラーを記録した。
『ちびまる子ちゃん』は単に小学生女子の日常を描いたほのぼの漫画ではなかった。そのテーマも演出手法も漫画の歴史に残る画期的なものだった。
当時の少女漫画の主人公といえば、恋に一途になったり、夢に向かってまっすぐ進んだりするような、女子読者の憧れとなるキャラクターが一般的だった。しかし、『ちびまる子ちゃん』の主人公である「まる子」にはそういう要素は一切ない。彼女はどこにでもいる何の取り柄もない平凡な女の子だ。勉強ができるわけでもなく、容姿がいいわけでもない。いつも寝坊をしたり宿題を忘れたりするようなダメ人間。遊ぶこととサボることだけを考えて生きている。
でも、彼女が特別に怠惰であるわけではない。多くの子供はそんなものだろうし、もっと言えば大人だって本質的には何も変わらないはずだ。まる子という自堕落に生きている等身大の女の子を主人公にしたことで、この漫画は万人にとって共感できるものになった。
さらに、この漫画の演出手法として画期的だったのが、ナレーションによるツッコミを導入したことだ。登場人物が何かを言った後に、その吹き出しの外に誰の台詞でもない文字が出てくることがある。漫画が始まった当初は、このナレーションは作者自身が子供時代の自分の分身であるまる子にツッコミをいれる役割を果たしていた。だが、回を重ねるにつれてその色は薄れていき、具体的な実体を持たない神の目線からナレーションの言葉が出てくようになった。
現在、お笑いの世界でもツッコミの役割は重要だと言われている。ボケとツッコミは漫才の中だけで行われるものではない。バラエティ番組の中でタレントが発した何気ない発言に対しても、芸人が鋭くツッコミをいれることで、そこに笑いが生まれる。ツッコミには「目線をつける」という役割がある。ボケに対してツッコミがあるのではなく、ツッコミによって前に出てきた台詞がボケであることがはっきりするのだ。