消費、都市の研究者として活躍する三浦展さんが、高度経済成長期に建てられた魅力的なビルの写真を集めた新著『ヤバいビル』(朝日新聞出版)を刊行した。「オープン A」代表、「公共R不動産」ディレクターを務める建築家の馬場正尊さんと、東京を歩き続けたことで出会った古いビルの魅力について語った。
■リノベーション時代の始まり
三浦:昔話に戻ると、中目黒にあった馬場くんの事務所「オープンA」の事務所って、自宅だっけ事務所だっけ。
馬場:最初は金がないからどこかに間借りしていた。最初は原宿のビラビアンカ(ヴィンテージマンション)の知り合いの事務所の机一個だけ借りて。ビラビアンカもヤバいじゃないですか。
三浦:元祖ヤバいです。
馬場:かっこいいなと思って。その後は友達の事務所の目黒の古いマンション。それが味があってよかった。その次は、中目黒の坂の上のマンションで自宅兼オフィス。そのころ1階に家具屋のパシフィックファーニチャーサービスがあった。
三浦:あった、あった。中目黒のマンションもかっこいいと思って住んでいたんでしょ?
馬場:そうです。あの頃は、中目黒そんな有名じゃなかったのですけど、仕事の途中降り立って、この街はなんかヤバいと思ったんですよ。川沿いとかに工場とかがあって、帰りがけに不動産屋さんに立ち寄って、ぼろくていいから安いやつないかと探した。そしたら案内してくれた物件が、間取りが台形なんですよ。でもすごい色気のあるビルで。見た瞬間に惚れて帰りに手付金を打って帰りました(笑)。
三浦:馬場くんはその行動の速さがすごいね。
馬場:衝動なんですよ。
三浦:その後、アメリカに行って『R the transformers』を出版したのが2002年ですね。
馬場:イデー(家具・デザイン専門店)の黒崎輝男さんの誘いです。古い建物をリノベするプロジェクトをやろうとイデーの黒崎さんが言い始めて、やろうやろうと盛り上がりました。その時に森ビルをやめたばかりの、今小説家の原田マハさんがいて。彼女はアートキュレーターだったんです。彼女も建築好きだから盛り上がって、古いビルの再生をアメリカに見に行こう、どうせなら本にしようと。
■東京R不動産誕生
三浦:日本橋の今の事務所に移転したのはいつだっけ?
馬場:2003年。
三浦:それでR不動産のブログを始めた。
馬場:ブログは2002年の終わりとか2003年の頭かな。ことのほか反応が良くて、「東京R不動産」という名前にして始めたのが2003年ですね。
三浦:馬場君に案内してもらって、住宅関連企業や美大の学生を連れて何度も歩いた。こんないいビルが残っていて、空き家になっているというので驚いた。新橋のリノベしたオフィスとか世田谷のイデーのビルとか築地市場の中に住んでいる人とか岩本町のぼろいビルに住んでいる人とか。