個人としてもチームとしても悔しい思いをした昨年の経験が、今年に生きているというのは、山田自身も認めるところだ。

「ああいう思いはしたくないっていうのは感じました。技術面以外にもモチベーションだったり、気持ちの部分ですごい勉強になりましたね」

 昨年まではシニアディレクターという立場でチームを見ていた小川淳司監督は、山田の昨年との違いを「気持ちの問題が大きい」と話す。

「やっぱりモチベーションの違いっていうのは非常に大きいんじゃないかなと思います。去年はケガでレギュラーの選手がいない中で、彼一人が孤軍奮闘じゃないけど頑張っていたっていう状況だった。アイツ自身も満身創痍というか、そういう状態で戦っていたと思うんで、気持ちの持ち方っていうのは大変だったと思います。今年はそういう面でも、去年より状態としてはいいんじゃないですか」

 7月は打率.425、7本塁打、18打点で通算6回目の月間MVPに輝いた山田は、8月に入ってもここまで打率.347、6本塁打、そして先月を上回る22打点と、好調をキープ。先述のとおり、このままいけば自身3度目のトリプルスリー達成は間違いない。それどころか、日本プロ野球史上初の「40-40(40本塁打、40盗塁)」への期待も膨らむが--。

「チームも上を目指している時でもあるので、個人の記録よりもそっちのほうが大事だと思いますし、そこの数字(トリプルスリー)は、達成したい気持ちはありますけど、まだ考える時じゃないと思います」

 山田がそう話したのは7月の月間MVP受賞会見でのことだったが、その考えは残り30試合あまりとなった現在も、さほど変わりはないだろう。昨年は主力に故障者が相次ぎ、5位の中日にも大差をつけられて最下位に沈んだヤクルトは、今年はここまで54勝55敗1分でセ・リーグ2位と健闘している。

 こうなれば、狙うは優勝した15年以来のクライマックスシリーズ出場、そして下剋上--。個人としてもチームとしても、昨年の悔しさを晴らした暁には、あの日流した悔し涙は「うれし涙」に変わっているはずだ。(文・菊田康彦)

●プロフィール
菊田康彦
1966年生まれ。静岡県出身。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身。2004~08年『スカパーMLBライブ』、16~17年『スポナビライブMLB』出演。プロ野球は10年からヤクルトの取材を続けている。

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