戦場取材の原点は「怒り」だと佐藤さん。戦争という不条理に対する「冗談じゃない」という強い気持ちが山本さんを突き動かした。山本さんが伝える映像は凛としたまなざしで女性や子どもに寄り添うものも多かったが、2003年のイラク戦争でジャーナリストの拠点となっていたパレスチナホテルが米軍に攻撃されたときの記録には彼女の怒りが強く刻まれている。その砲撃により、ともに戦場を取材していたロイター通信のカメラマンが死亡。悔しさから思わず発した「ちくしょう」という山本さんの言葉は、日本のメディアでも取り上げられた。この言葉こそ、不条理への怒りそのものだった。
危険地取材につきまとう「自己責任」という言葉。現在、シリアでは安田純平さんが武装勢力に拘束されているが、それも「自己責任」なのか。佐藤さんが、その言葉の意を問う。
「世界のことを記者の目や感性で伝えることがジャーナリストの仕事。政府も世界情勢を把握することの重要性を伝えています。確かに、自己責任で紛争地に行ったかもしれませんが、現在、一つの事件に遭遇しているわけです。それを助けるのが政府の役目じゃないのかなと、僕は思います。『自己責任』という言葉をうまく逃げ道にしているようにしか思えません」
安田さんが拘束されて約3年が経つ。同じ時期にシリア北部で拘束されたスペイン人ジャーナリスト3人は、既に解放されている。詳細は公表されていないが、トルコ紙などによれば、スペイン政府が各所に協力を要請し、1人につき370万ドル(約4億円)を払ったとも言われている。
「どの政府も解放のために手段を尽くしているし、『二度と行くな』とパスポートを取り上げることもない。以前にも、スペイン人フォトジャーナリストのリカルド・ガルシア・ビラノバさんは2013年の秋から約半年間に渡ってシリアの武装勢力に拘束されましたが、解放後も現地を取材している。それに対して、政府も国民も批判していない。民主主義が成熟していて、メディアが監視しなければ政府が暴走することを知っているから。日本のメディアももっと取材して、国民の信頼を勝ち得ていかなければならないと感じています」(佐藤さん)