この二人に次ぐ存在と言えるのがエースの柿木蓮だ。選抜では準決勝から状態を落として決勝のマウンドを根尾に譲り、春の大阪府大会はベンチから外れるなど苦しい時期はあったものの、最後の夏に大きく成長した姿を見せている。1回戦の作新学院戦では先発を任せられると立ち上がりと最終回にピンチを招いて1点は失ったものの、それ以外は終始危なげないピッチングを見せて完投。ストレートはコンスタントに145キロ前後のスピードをマークし、スライダーを低めに集める制球力も見事で与えた四球はゼロだった。さらに凄かったのが2回戦でのピッチングだ。根尾の後を受けて9回にマウンドに上がると、最初の打者の2球目に自己最速を更新する151キロをマーク。その後も140キロ台後半のスピードを連発して、力で抑え込んで試合を締めくくった。先発では緻密さ、リリーフでは豪快さと見事な二面性を見せており、この甲子園で一気にスカウト陣の評価が上がったことは間違いないだろう。若手投手陣が不足している球団は上位で指名して来ることも十分に考えられる。

 ここまで挙げた3人以外も素晴らしい選手は多いが、今すぐプロというよりも大学、社会人でスケールを増してから指名を狙うというタイプが多い。そんな中で下位指名という条件付きで可能性を感じるのが190cmの大型サウスポー横川凱だ。チームでは柿木、根尾に次ぐ3番手という位置づけで、今年の選抜でも2試合に登板して最速は140キロに届かなかったが、長身からのボールの角度は大きな魅力である。意外に器用で変化球を上手く操り、試合を作る能力は低くない。まだまだ体が出来上がっていないだけに、しっかり鍛えた時にどんなボールを投げるかという将来性を推す声も大きい。本人が強烈にプロ志望を表明すれば触手を伸ばす球団が出てくる可能性もあるだろう。

 過去のドラフト会議で同じ高校から同時にドラフト指名された最多記録は2001年の日大三(西東京)で、内田和也(ヤクルト4巡目)、千葉英貴(横浜6巡目)、近藤一樹(近鉄7巡目)、都筑克幸(中日7巡目)の4人がプロ入りしているが、いずれも下位指名にとどまっている。また2012年の春夏連覇を達成した大阪桐蔭は藤浪晋太郎(阪神)、森友哉(西武)、澤田圭佑(オリックス)がプロ入りしており、社会人2年目の平尾奎太(Honda鈴鹿)も今年のドラフト候補に名を連ねているが、森は当時2年生であり高校からプロ入りしたのは藤浪だけである。そのことを考えても、今年の大阪桐蔭の3年生のメンバーは改めて逸材が揃っていることがよく分かるだろう。

 彼らが100回記念の大会でプロ入りに向けて大きな花を添えることができるのか。3回戦以降のプレーぶりからも目が離せない。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

著者プロフィールを見る
西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

西尾典文の記事一覧はこちら