石破氏が脱原発宣言をすれば、小泉進次郎衆議院議員の支援を受けられる可能性もあるのではないか。不退転の決意で、そこまで踏み切ることへの驚きと尊敬の念が、進次郎氏の心を揺さぶることも夢ではない。その先には、自民党内の脱原発の急先鋒、小泉純一郎元総理による支援へとつながるかもしれない。そうなれば、国民的な広がりが期待できる。原発推進にこだわり、強引に原発再稼働に突き進む安倍総理へのアンチテーゼとして、国民の安全安心が最優先という路線を強調できれば、中間層への支持拡大も夢ではない。
自民党総裁は自民党員が決める。しかし、自民党員も、選挙に勝てない総理であれば、支持できないという気持ちは強いはずだ。もし、脱原発を唱えた石破氏に国民の期待が高まることが目に見えるようなら、特に、統一地方選を来春に控えた地方では、自民党員だけでなく、国民に広く支持される総裁として、石破氏を選ぶところが増えるかもしれない。
私は、石破氏の政策論について全面的に賛同するものではない。むしろ、政策の具体論では考え方が大きく違うところも多い。しかし、問答無用、数の力で強権的に政治を進める安倍政権に比べて、石破政権であれば、少なくとも野党を含めて熟議を重ねる政治につなげることができるかもしれないという期待は持っている。
私は、ニューヨークでこのコラムを書いている。ここまで書いて、原稿を締めくくろうとしたところで、たった今、石破氏が総裁選出馬を正式表明したというニュースが入ってきた。石破氏は、出馬表明の冒頭で、「正直で公正、謙虚で丁寧」な政治を目指すと宣言した。これは、私が本稿で述べてきた「覇道の安倍」対「王道の石破」という対立軸を別の言葉で表したものに他ならない。
石破氏には、是非、「王道」を進む政治家を目指し、国民目線での対話と説得の姿勢、そして、自らも国民に説得されて政策を変える可能性があることを示して、自民党員だけでなく、幅広い国民の支持を得る努力をしてもらいたい。それができなければ、先の7月30日付本コラムで述べた通り、安倍総理圧勝で、一強体制がさらに強化され、本当に安倍総裁4選、そして事実上の独裁政権となり、「皇帝」安倍晋三誕生につながってしまうのではないか。改めてそういう心配をしてしまうのである。