例えば、法律制定、閣議・省議などの決定、役所間の申し合わせなどについては、その「経緯」も含め文書作成義務があると条文に書いてあるが、経産省の規則では、「重要な経緯」と書き換えられている。重要ではないと思ったので作成しませんでしたとか、捨てましたとか言い訳できるようにしているのだ。

 このようないい加減なルールの下では、前述の係長なら、次のように言い逃れをするであろう。

「確かに、複数の役所間の『申し合わせ』については、その経緯についても文書作成義務はありますが、お問い合わせの会議では、特に申し合わせをしようという目的はなく、ただの意見交換にとどまっていましたので、議事録は作成していません。この会議は、課長補佐レベルの会議ですから、軽微なものだと考えられます。法律では軽微なものについては文書を作成する義務はかかっていません。たしかに経緯を文書で残せと書いてありますが、経緯に関する文書作成義務も当省の規則では『重要な』ものに限定されていますので、文書がないことについては、何の問題もありません」

 実際、この係長の言う通りの欠陥が存在するのである。

■都合の悪いものは早く捨てろ

 文書の保存期間の設定についても根本的な問題がある。文書の作成義務があるとはっきり法律で定めているものについては、さすがに、一応保存期間が定められているのだが、前述した、法律上限定列挙されていない文書の保存期間については、各省庁が恣意的に決められることになっている。

 したがって、仮に、前述の課長補佐同士の役所間の会議の議事録を行政文書として正直に登録して保存したとしても、役所によっては、1年で廃棄ということも可能だ。森友学園問題などは、1年以上経ってから問題が発覚した。数年後に問題となるケースもよくある。そのような場合、既に文書が廃棄されているということが今後も起こるということだ。

 本来捨てたはずの文書が実は個人メモとして保存されていたということが最近の事例ではよく起きた。

 今後は、危ないものはすぐ捨てろ(ただし、将来必要になりそうなものは個人で保存しておけ)という運用が徹底されるであろう。

■懲戒免職は泥棒が泥棒を捕まえる仕組み

 今回の見直しでは、他にも見逃せない大問題がある。文書管理上の不正に対して、刑事罰を設けなかったことである。官邸は、文書改ざんなどは、懲戒免職になると「はっきりさせた」と胸を張っているがそんなことは当たり前のことだ。それよりも、問題なのは、役所のためだと思えば、幹部が先頭に立って不正をやるということに対して何の対策もないことである。

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