1982年の東海大甲府vs境。9回裏、境の三浦がツーランホームランで反撃する (c)朝日新聞社
1982年の東海大甲府vs境。9回裏、境の三浦がツーランホームランで反撃する (c)朝日新聞社

 記念すべき第100回全国高校野球選手権記念大会が明日5日に開幕する。今年もどんなドラマが生まれるか大いに楽しみだが、懐かしい高校野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「思い出甲子園 真夏の高校野球B級ニュース事件簿」(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、夏の選手権大会で起こった“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「シャレにならないうっかりミス編」だ。

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 お盆を前にした1982年8月11日、1回戦の東海大甲府vs境で、「死んだ」はずの走者が生還するというミステリーな珍事が起きた。

 0対9とリードされた境は9回裏、4番・三浦和彦の左越え2ランで2点を返し、なおも無死満塁。次打者の代打・松岡浩一は遊ゴロに倒れたが、打球を処理しようとしたショート・前沢健と二塁走者・中平和彦が交錯し、2人ともその場に倒れ込んだ。当初は中平に打球が触れたと判定されたが、その後、打球が当たっていなかったことが確認されたため、守備妨害に訂正された。いずれにしても、中平はアウトである(ただし、松岡の甲子園初安打は取り消し)

 問題が起きたのは直後だった。このようなケースでは、通常なら三塁走者は三塁に戻され、一塁走者は二進、打者走者は一塁の1死満塁で試合再開となるところだが、三塁走者・升田敏行がホームインしてベンチに戻ったことから、審判団はアウトになった中平を三塁走者と勘違い。そのまま三塁にとどめてしまったのだ。

 そして、中平は次打者・手島範光の押し出し死球で3点目のホームイン。ルール上アウトになったはずの走者が生還し、得点が認められるという、あってはならない事態……。いくらお盆のシーズンとはいえ、野球で“死者”が帰ってくるのは、シャレにならない。

 実は、この試合ではもうひとつ、審判のうっかりミスがあった。境は0対0の3回1死一、三塁で本池康二のスクイズがファーストへの小フライとなり、捕球した花井昭光が一塁ベースを踏んで併殺になったが、すでにスタートを切っていた三塁走者・角寿成はスリーアウト目が成立する前にホームインしていた。

 この場合、相手チームからアピールがない限り、得点が認められるはずなのに、4回に入り、アピール権が消失したにもかかわらず、無得点のまま。もし、このとき境の先制点が認められていれば、試合の展開、結果も違ったものになっていたはずで、公式記録員も含めて、迂闊な対応だった。

 漫画「ドカベン」でも紹介されたこの珍プレーは、2012年に済々黌が2回戦の鳴門戦で成功させ、今度は得点が認められた結果、3対1で勝利を収めている。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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