「あるに決まっているじゃないか」と思った。病から回復した今や必要ないとしても、伝えたいことは色々ある。

 彼のエッセーを読んでいたおかげで連載に踏み切れたこと。それがめぐりめぐって、今月19日にはがん患者の思いを舞台上でしゃべることになり、芸人の村本大輔さん(ウーマンラッシュアワー)に促されて配偶者まで舞台に上げられたこと。連載を読んだ人の反応まで広げたら、それこそきりがない。

 そして、病気との付き合いで「~よりない」と思い定めるのは、先崎九段の影響もあるのでは想像していること。その新著を食事中も読み続け、「先崎は自分の中で大きな存在なんだよ」と配偶者に言い訳したこと。

 そうしたもろもろを、彼のエッセーに登場したことがある共通の知人を通じて伝えることも考えた。だが考えてみれば、この連載以上にふさわしい場はない。何といっても、彼のおかげで立ち上がった連載なのだから、と思い直して記したのがこの文章だ。

 将棋を心の支えに復活を遂げた彼に、それ以外に割くエネルギーはないかもしれない。だが私にとって「先崎学」は、棋士である以上に物書きだ。「これからも書くよりない」と思い定めてほしい。

 時に私を鼓舞し、立ち上がらせ、時に朗らかな気分にさせてくれる。そんな「先崎節」を待っている。

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野上祐

野上祐

野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、翌月手術。現在は闘病中

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