うまくいかなかった2度の手術。「もう完全に治ることはない」と医師は言った。「1年後の生存率1割」を覚悟して始まったがん患者の暮らしは3年目。46歳の今、思うことは……。2016年にがんの疑いを指摘された朝日新聞の野上祐記者の連載「書かずに死ねるか」。今回は「体調」について。
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7月8日午前6時過ぎ。
照りつける太陽につい先走ったのか、庭でセミがジジジッと一節、鳴いた。
「時期を間違えたんじゃない?」と配偶者が笑う。鳴き声が続くのを待ったが、次に聞こえてきたのはお昼時だった。
それまで鳴くセミがいなかったと断言できるのは、庭に面したベッドから午前中いっぱい離れられなかったためだ。
眠気に貧血が入りまじったように頭がしびれ、こめかみがきしむ。ぎゅっと目をつぶってベッドで耐える。目を閉じているのに、天井の明かりがぎらつくのを感じる。ちょっとした物音が金属音のように耳に突き刺さり、様子を見にきた配偶者のため息がときおり混じる――。こんな日が最近、週に何日かある。
夏の日差しが厳しいとはいえ、家にこもりっぱなしでいるわけにはいかない。10日に一度は抗がん剤の点滴を受けるために病院に通わなければいけないし、体を動かして体力を取り戻さなければ、病気に押し込まれるいっぽうだ。
今では太ももはやせ細り、広辞苑ほどの厚みがあるかどうか、といった感じだ。本屋で10分間も立ち読みすると、冗談のように太ももが震え出す。
いったん外出すれば、日差しの下から屋内に逃げ込んでも、お日さまが額にピタッと張りついたように熱を発し続け、まぶたの裏でジリジリ照り続ける。