世界中が今まさに熱狂しているサッカーも、スポーツ貧血を来たしやすい競技の一つです。来年にはFIFA女子ワールドカップも開催予定ですが、スウェーデンのLandahl氏らの報告によると、代表チームに召喚された28人の女性サッカー選手のうち、57%がFIFA女子ワールドカップの6カ月前に鉄欠乏症であり、29%が鉄欠乏性の貧血であったといいます。
貧血は、男女問わず、スポーツをする人に多い内科疾患の一つであり、アスリートにとって、スポーツ貧血は内科疾患として最たるものだと言っても過言ではないのです。
では、どうしてスポーツをすると貧血になりやすくなるのでしょうか?
一つ目の原因として、スポーツをする人は筋肉量が多いことが挙げられます。筋肉は多くの酸素を消費します。その酸素を運ぶ役割を果たすのがヘモグロビンであり、必要となるまで筋肉内に酸素を溜め込んでいるのが、筋肉細胞に存在するミオグロビンです。どちらも主な成分は鉄であるため、筋肉量が多いと鉄欠乏に陥りやすくなるのです。
二つ目の原因として、急激な大量の発汗が挙げられます。汗には、鉄を始め多くのミネラルが含まれています。普段汗をかくときは、再吸収の機構が働きます。これは、かつてミネラルが豊富に存在する海中に住んでいた私たちの先祖が、ミネラルの乏しい陸地に上がり適応する過程で身につけた仕組みだと考えられています。けれども、激しい運動をするとこの再吸収が追いつかず、多くのミネラルとともに鉄も失われてしまうのです。
三つ目の原因として、運動による衝撃で赤血球が壊れてしまうことが挙げられます。これを「溶血」と言います。赤血球が脊髄で作られる数よりも、破壊される数の方が多くなることで、貧血が生じます。この現象は、マラソン、剣道やサッカー、バスケットボールなどで生じやすく、この貧血を「運動性溶血性貧血」とも言います。
■ランナーの便からわかった、失われるヘモグロビン
さらに、四つ目の原因として、消化管からの微小な出血が挙げられます。マラソンや長距離走など、耐久性を必要とする競技で多く見られます。運動をすると、筋肉や皮膚への血流が増えます。一方で、消化管への血流は減ってしまい、消化管の上皮細胞は酸素や必要な代謝基質を受け取ることができず、粘膜の出血や壊死が生じ、貧血が引き起こされてしまうのです。