運動をしている人がプロテインを摂取している光景はよく見かけるが、鉄の摂取はあまり見かけない(※写真はイメージ)
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 日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、「スポーツ貧血」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。

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 世界中で盛り上がりを見せているサッカーのワールドカップ・ロシア大会。ついつい試合を見てしまって、寝不足が続いている…なんていう人は多いのではないでしょうか。

 さて、皆さんは「スポーツ貧血」という言葉を聞いたことがありますか? サッカーを始めとするスポーツが原因で引き起こされる鉄欠乏性貧血のことを、スポーツ貧血と言います。今回は、アスリートはもちろん、日頃からスポーツをしている人であれば、年齢や男女を問わず引き起こす可能性のあるスポーツ貧血についてお話したいと思います。

 ある日のこと。剣道部に所属している17歳の男の子が外来にやってきました。部活動にも授業にも集中できなくて、練習が辛いと言うのです。採血すると血中のヘモグロビン濃度が低く、鉄欠乏性の貧血でした。また別の日には、ダンス部に所属している8歳の女の子がやってきました。1カ月ほど前から、動悸やめまいを自覚。よくよく話を聞くと、半年ほど前から、ダンスにはげむ傍、ダイエットをはじめ、食事量を減らしていると言います。採血すると血中のフェリチン値が低く、鉄欠乏状態であることがわかりました。

 実はこれ、診療室ではありふれた光景です。

 貧血とは、鉄の不足によって全身の隅々まで酸素を運ぶことができなくなっている状態です。言い換えると、酸素が足りない酸欠状態で、必死にトレーニングや運動をしていることになるのです。

■サッカー女子ワールドカップでも注視

 アスリートを始め、スポーツをする人は、鉄欠乏性貧血になりやすいことが古くから指摘されています。例えば、2009年の国民体育大会において強化指定選手である中学生・高校生・成人170名のうち、25.3%が鉄欠乏性貧血でした。成人女性は50%で最も高く、次いで高校女子が27.9%、高校男子が24.7%だったといいます。

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