その最大のライバルが白鴎大だ。過去10年の全国大会の勝利数はわずかに1勝であるが、過去10年で育成選手を含めて9人ものプロ野球選手を輩出しており、2016年には大山悠輔阪神1位)、中塚駿太(西武2位)と同時に二人が上位指名されている。他の大学の顔ぶれを見ても、東海大は古くからの強豪であるが、創価大、富士大、桐蔭横浜大などはここ数年メキメキと力をつけてきたチームである。全国の舞台では必ずしも東京六大学のチームだけが優勢ではないということがよく分かるだろう。

 そしてこのような地方リーグに所属する選手の多くは高校時代に無名だった選手である。先述した大山、中塚はいずれもつくば秀英(茨城)出身だが、一度も甲子園に出場していない。上記の大学でそのような選手を何人かピックアップしてみた。

・上武大
加賀繁(DeNA):埼玉平成
安達了一(オリックス):榛名
加藤翔平(ロッテ):春日部東

・東北福祉大
石山泰稚(ヤクルト):金足農
佐藤優(中日):古川学園

・創価大
小川泰弘(ヤクルト):成章
石川柊太(ソフトバンク):総合工科
田中正義(ソフトバンク):創価
池田隆英(楽天):創価

・富士大
中村恭平(広島):立正大淞南
山川穂高(西武):中部商
外崎修汰(西武):弘前実
多和田真三郎(西武):中部商
小野泰己(阪神):折尾愛真

・桐蔭横浜大
東明大貴(オリックス):富田
横山弘樹(広島):宮崎日大

・愛知学院大
浦野博司(日本ハム):浜松工
源田壮亮(西武):大分商

 小川は選抜に出場しているが、21世紀枠での出場であり、当時はプロからの評価も全く高くなかった。他の選手も大学で力をつけてプロ入りした選手ばかりである。一方の東京六大学は甲子園で華々しい成績を残し、高校時代から有名な選手は多いが、その後伸び悩むケースは少なくない。

 2011年夏の甲子園で優勝した日大三はレギュラーのうち6人が東京六大学のチームに進学したが、その後プロ入りしたのは高山俊(阪神)と横尾俊建(日本ハム)の二人にとどまっている。残りの四人もチーム内ではレギュラーを獲得し、卒業後は社会人野球に進んでいるのは立派だが、ほとんどリーグ戦に出場できないまま四年間を終える例も少なくない。

 その背景にはさまざまな理由があると思われるが、一つは東京六大学に進学して神宮球場でプレーすることに満足してしまっているところもあるのではないだろうか。リーグ戦を勝ち抜いて全国大会の舞台で活躍しなければ注目されない地方の大学でプレーする選手たちと比べると、間違いなく恵まれている環境であり、そのことが成長の妨げになっている部分も多いように見える。

 注目される場で野球をやりたいという気持ちも分からなくはないが、本当に野球で身を立てたいと思うのであれば、必ずしも東京六大学が最適な環境とはいえないだろう。11日に開幕する大学選手権もそのような視点からも注目してもらいたい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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