こうした状態では看護師自身の体調が悪くても休めない。特に夜勤の日は、恭子さんは「38度までの熱ならインフルエンザでもない限り、はってでも出勤してマスクをして勤務する」という。夜勤を急に代わってくれる人などめったにいない。妊娠中でも看護師は暗黙の了解で皆、夜勤をこなしている。同僚が育休を取っている間、代替職員が見つからずに欠員状態で夜勤を回すことが多く、一人当たりの夜勤が10回以上になってしまう。労使協定や看護師等の人材確保の促進に関する法律(看護師確保法)のガイドラインでは3交代で夜勤は月8回以内とされており、それを超えてくると過労死寸前と感じる看護師は少なくない。誰かが妊娠したと分かると、皆、気が気でない。今まで恭子さん自身、悪気がなくても「あ、〇〇さんが産休に入ったら(自分の)夜勤回数が増える」と計算してしまっていた。
悪阻のひどかった恭子さんは、「悪阻くらいでは休めない」と、吐きそうになるとトイレに駆け込みながら働いていた。おなかは常に張っていてカチカチの状態。夜勤明けに出血し、産婦人科にかかると「切迫流産」(流産しかかる状態)と診断されて数日休むことができたが、症状が治まると再び夜勤に組み込まれた。夜勤中、腹部に激痛が走ってうずくまったこともある。ペアになっていた看護師がフォローしてくれたが、「これでは、かえって皆に迷惑をかけてしまう。おなかの赤ちゃんも心配だ」と、清水の舞台から飛び降りる覚悟で師長に夜勤免除を申し出たが、「夜勤ができて一人前。正職員なのだから、特別扱いはできない」と一蹴された。
本来、労働基準法によって妊産婦が請求すれば、夜勤はもちろん、時間外労働や休日出勤も免除される。法違反があれば、違反者は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則規定があるが、人手不足のなかでは、無法地帯と化してしまう。労働基準法や男女雇用機会均等法には「母性保護」規定がある。労働基準法では、正規・非正規を問わず全ての労働者に産前産後休業を保障している。他にも、妊娠中の女性が請求すれば軽易な業務への転換、変形労働時間制があっても1日および1週間の労働時間を超えて就業させないなどが定められている。男女雇用機会均等法では、妊婦健診に通う時間の確保、妊娠中の通勤緩和などが定められるほか、事業主に対して、妊娠や出産、産前産後休業を取得することなどを理由に解雇、降格などの不利益な取り扱いを禁じている(厚生労働省ホームページ「働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について」参照)。