ただ、権利はあっても「本人の請求があれば」という点で、「周りに迷惑がかかるから」と躊躇して請求できないケースも多い。また、男女雇用機会均等法の母性保護規定には罰則がないため、マタニティハラスメントは起こりやすい。筆者は、10年ほど前から看護師のマタハラ問題について雑誌媒体などで取り上げ、著書『看護崩壊』(2011年、アスキー新書)、『ルポ看護の質』(2016年、岩波新書)などでも問題を指摘してきた。まるで妊娠が悪いことのように「妊娠者」と呼ばれ、妊娠や出産を理由に休むと「事故欠が出た」とさえ言われる医療現場が散見されている。都内のある病院の看護師は、「毎年、夏頃に次年度の異動希望や研修を受ける希望があるかどうか調査され、結婚や妊娠についての項目も答えなければならない」と困惑している。
24時間、365日、患者をみていく病院の看護師にとって、子育て中の看護師は夜勤がネックで辞めていくため「短時間正職員制度」が導入されるなど、夜勤を免除して子育てと両立を図る病院も増えてはいるが、妊娠中の夜勤免除はなかなか徹底されないのが現状だ。
日本医療労働組合連合会が1988年から定期的に行っている「看護職員の労働実態調査」の最新版(2017年、3万3402人が回答)を見ると、「妊娠時の状況について」(2014年4月以降の妊娠について)では、「切迫流産」が30.5%、「流産」が10%に上り、いずれも前回の2013年調査と比べ微増している。妊娠時の母性保護の支援措置については、「夜勤・当直免除」が49.9%で、前回調査の65.5%から約16ポイントも減少。妊娠しても約半数の看護職が夜勤免除されずに夜の病棟を走り回っていることになる。今回の調査からマタハラ経験について質問を新設しており、10人に1人がマタハラ経験が「ある」と回答している。マタハラを受けた相手として、約7割が「看護部門の上司」、約3割が「同僚」だった。