京都府舞鶴市で4日行われた大相撲の春巡業。土俵上で突然、倒れた同市の多々見(たたみ)良三市長(67)に心臓マッサージをしていた女性に対し、若手行司が「土俵から降りてください」とアナウンスし、その後、大量の塩をまくなどの対応が痛烈な批判をあびている。
朝日新聞デジタルによると、土俵に駆け上がった女性は看護師だった。市長はその後、病院に運ばれ、倒れた原因はくも膜下出血と判明。すでに手術を終え、一命をとりとめているという。
「女性の救命措置がなければ、亡くなっていた可能性もあります。すばらしい対応ですね」
そう絶賛するのは、小倉記念病院脳卒中センター長・脳神経外科主任部長の波多野武人医師だ。
「倒れた直後は、くも膜下出血かどうかわからなかったはずです。ただ、そうであってもなくても、意識を失っていて呼吸がなく脈が触れなければ、心臓マッサージが必要になります」(波多野医師)
くも膜下出血を発症すると、約3割が死亡し、助かったとしても約3割に後遺症が残るといわれている。働き盛りの40代から発症が増えるとされ、2010年、プロ野球巨人・木村拓也コーチが試合前の練習中にくも膜下出血で倒れて亡くなったのも記憶に新しい。意識障害を起こしている患者にどう対応するかが、大きなカギとなる。
南相馬市立総合病院院長で脳神経外科を専門とする及川友好医師は、初期救急医療の重要性をこう話す。
「くも膜下出血を発症すると呼吸が停止してしまうことは頻繁にあります。時間とともに蘇生の確率が低くなってしまうので、胸骨圧迫、いわゆる心臓マッサージはとても重要です。初期救急医療をしっかり理解している、正しい措置だったと思われます」
大相撲「女人禁制」の伝統は江戸時代から続くが、即座に土俵に駆け上がった女性の「神対応」に、八角理事長(元横綱北勝海)も「人命にかかわる状況には不適切な対応でした」と謝罪。「当たり前のことをしただけ」と女性は感謝状を固辞したというが、最近の相撲協会はいろいろ「当たり前」の感覚を忘れてはいないか。
(AERAdot.編集部・井上和典)