かつてヤンキース、ドジャースで活躍した黒田博樹投手などはこうしたスタンスで、極端な守備シフトには批判的だった。今季からマリナーズへ復帰したイチロー外野手も、打者との心理的駆け引きの有用性は認めつつもデータ偏重への警鐘を鳴らしていた。
そして、王ですらバントしたように、相手が策を弄するならこちらはその裏を……という作戦も、日本では忌避感を覚えないことの方が多い。これをやられると守備シフトは何の意味も持たない(それどころか傷口を広げるだけ)ため、実行しづらいのは間違いない。
また、日本でもデータ解析は進んできてはいるものの、メジャーリーグのレベルには到底及んでいないこと、そうした解析担当の権限や発言力がまだまだ高くないことも見過ごせない。
基本的に日本の監督やコーチたちはかつての名選手たちばかりなため、自分たちの成功例、経験則に沿った指導をする人が多いが、メジャーのコーチたちは現役時代に大成できずに若くして引退し、指導者としてのキャリアを下積みしてきた人が少なくない。つまり、年齢的に若いこともあって、新たな手法を取り入れることに抵抗のない人もたくさんいるということだ。こうしたシフトを敷く権限を持つ者(あるいは提言する者)たちの背景の違いもまた、日米の守備シフトの流行り具合に影響しているのではないだろうか。(文・杉山貴宏)
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