今年4月期の番組改編の内容については、近年の視聴率を受けて「泰然自若」の日テレ、「改革断行」のフジといったところだが、とはいえ、フジが失った“縦の視聴率”を取り戻すのは、なかなかに至難の業とも思う。
視聴率というと、それぞれの番組視聴率や同時間帯に放送されている裏番組との比較がとかく注目を集めがちだが、じつはテレビ局にとっては前枠の番組、後枠の番組も絡めた「縦の視聴率」が重要な要素になってくる。
たとえどんなに良い番組を作っても、前枠の番組の視聴率が不調だと視聴者の“入り”が悪くなり、一気の挽回は難しい。
逆に、前枠の番組の視聴率が好調だと“入り”が良くなり、後枠の番組の視聴率も良くなる傾向にある。
このことは「NHK紅白歌合戦」の歌手別視聴率の上がり、下がりなどを見ると、分かりやすいだろう。
その年の出場歌手の中でも目玉となるアーティストの出番の時間帯はもちろん、その前後も総じて視聴率は高くなりやすい。
目玉の歌手の出番が終わったからと言って、一気に視聴率が下がるといったケースは極めてまれだ。
テレビ番組の価値づけは、まずは視聴にチャンネルを合わせてもらい、その番組を見てもらわないと始まらない。
視聴者がはじめは大して期待していなかった番組も、何となく視界に入っているうちに興味を抱いたり、面白さを感じて見るようになるといったケースはままある。
リモコン式が普及した近年は、わざわざテレビに近づき筐体に付属したダイヤルを回していた時代に比べるとチャンネルの切り替えもスムーズになっていたとはいえ、いまだに「縦の視聴率」は大きな存在感を放っているのだ。
当然、番組編成のプロたちはこうした「縦の視聴率」を常に意識しており、近年、視聴率が好調な日テレ、躍進が続くテレビ東京などは上手くいっているように思える。
82年から93年にかけて、12年間連続で年間視聴率三冠を達成した黄金時代のフジも、当時は高視聴率が見込める人気番組を軸に「縦の視聴率」を意識した番組編成が功を奏して「とくに見たい番組はないけどとりあえずフジをつけておくか」といった数多くの視聴者の「視聴習慣」をも手にしていたわけだが…。
「縦の視聴率」の軸となる数多くの人気番組、長寿番組を失ってからの改革への着手は、あまりに遅すぎるようにも思えるが、今後のフジの動向を注視したい。(芸能評論家・三杉武)