林寛之医師(福井大学医学部附属病院救急科・総合診療部教授)
林寛之医師(福井大学医学部附属病院救急科・総合診療部教授)

 命を救うのが医師の仕事である一方で、「命の終わり」を提示するのも医師の務め――。救急や外科手術、がんやホスピスなど死に直面することが避けられない現場で日々診療を行っている医師20人に、医療ジャーナリストの梶葉子がインタビューした『医者の死生観 名医が語る「いのち」の終わり』(朝日新聞出版)。その中から、NHK人気医療番組「総合診療医 ドクターG」でも知られる、福井大学医学部附属病院救急科・総合診療部教授の林寛之医師を紹介する。

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 救急をやっていて一番つらいのは、子どもや働き盛りの人が亡くなった時。人間、死ぬのは1回だけです。医者は常に人が死ぬのを見てますが、その人が死ぬのは1回だけだし、家族にとっても1回だけですね。そういう時のグリーフィングケア、会話の仕方などには訓練が必要です。訓練によって、ある程度はできるようになります。

 患者さんが亡くなった時には、簡潔に死亡したということを伝えます。ご家族は泣かれますが、その間は矢継ぎ早に説明したりせず、一緒にじっと時間を共有し悲しみを十分に吐瀉してもらう。少し落ち着いたところで、経過など事務的な説明をします。そしてその後、元気だった頃の話を聞くんです。亡くなった人を思い起こし、その人について話す機会を与える。

 ご家族の中には、医療ミスじゃないのかとか、ガッと怒りをぶつける人がいますが、これは目の前に受け入れられない現実がある時の「否認(ディナイアル)」という正常な反応です。医者がそれをまともに受けてケンカをしてはダメで、「つらいですね……」ってひとこと言えばいいんです。

■元気なうちに、最期を迎える時の意思を確認しておく

 ただ、実は今はもう「救急医療イコール老年医療」になってきています。

 例えば、98歳の高齢者が救急搬送されて来る。誤嚥性肺炎で6回目の救急搬送、そのたびに入院して持ち直していたけど、今回はもう瞳孔が開いて、救急隊が心マッサージをしている。

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ICUでの最期の数日に医療費200~300万?