物件サイトで調べるために、彼女に引越し先の条件を聞いてみた。彼女はあまり金銭的に余裕のある人ではなかったこともあり、家賃は相場の平均より少し低めが良いらしい。ただしオートロックの物件でなくては嫌だそうだ。さらに駅から近くて、2階以上で、できれば洗濯物を外に干したくないので、浴室乾燥機があったほうがいいらしい。
私がそれを聞いて、まず思ったのは「相場以下で、そんな物件を探すのは難しくないか?」ということだった。しかし彼女がそのような条件を出していたのは、わがままでも何でもなく、女性であるがゆえに求められる警戒心のあらわれであった。結局、当初に考えていた条件に合う物件は見つからず、彼女は希望よりも家賃が高い物件に引っ越すことを決めた。
他の友人の女性と話をしていた時にも、同じようなことを思ったことがある。ちょうどその頃、彼女は長く付き合っている彼氏と同棲を始めたらしい。彼女の新居は、駅から15分ほど離れたところにあるそうだが、駅から少し離れると街灯もまばらで暗いところも多いらしい。
そんなこともあって、帰りが夜遅くになる時は、いつも彼氏が駅まで迎えに来てくれるそうだ。その話を聞きながら、はじめは「彼氏は良い人だな」程度のことしか思っていなかった。しかしよくよく考えてみると、それよりも重要なことは、なぜ彼女は一人で歩いて帰ることを避けなければならないのかということだ。男性であれば、そんなことを気にする必要はないはずだ。
友人数人で痴漢の話になった時には、女性にとって性暴力がどれだけ身近なものかということに驚かされた。当時の私は、痴漢がどれほど身近なものかについての実感はなかった。しかしその場にいた全ての女性が、痴漢にあった経験があると言っていた。ある人は、「都内の学校に電車通学する女子中高生は、何かしらの形で痴漢にあうのは割と普通だよね」と語っていた。彼女たちにとって、電車などで周囲を警戒することは当たり前のことになっていた。