その典型例が、1995年にダウンタウンの浜田雅功とのユニット「H Jungle with t」のデビュー曲としてリリースされた『WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント』である。この歌詞で描かれているのは、慌ただしく仕事に追われる日々の中で、何とか前向きに生きようとする大人の男の心情だ。歌詞の内容が、当時多忙を極めていた浜田のキャラクターともぴったり重なっていた。小室は吉田拓郎の『旅の宿』を意識してこの詞を書いたという。この曲は200万枚を超える大ヒットを記録して、「H Jungle with t」は『NHK紅白歌合戦』にも出場した。

 90年代後半の小室ブームとは、景気の底が抜けた日本で、いずれ終わることを運命づけられていた「不安混じりのから騒ぎ」だった。時代の空気にぴったりと合っていたからこそ、あれほど爆発的なブームが生まれたのだ。当時の小室が手がけた楽曲が今でも多くの人に愛されているのは、そこに含まれる「せつなさ」が聴き手の心に深く刺さっていたからではないだろうか。(ラリー遠田)

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