では、どういう基準で往診するかどうかの判断をしているのだろうか。英医師はその考え方を、次のように説明する。
「それは、往診の目的は何かということにつながります。往診して在宅医がおこなうことは、患者さんの病状の変化に対しての初期治療や処置になりますが、それによって患者さんや家族の方の不安を解消する意味合いも持っています。電話だけでは不安が解消されない、患者さんや家族の方が『医師に診てもらうことで安心を得たい』と思っていると判断されるケースは往診するようにしています」
電話での指示だけで済むのは、それで不安が解消されるケースだという。
在宅医療は、患者の生活全体をサポートしていくことを一つの目的としている。医学的なマニュアルによって往診するべきかどうかが一律に決まるわけではない。一方で、往診でできる治療や処置には限界がある。患者・家族の生活背景や在宅医療に対する希望などを考慮し、かつ病状の経過も含めて主治医が総合的に判断するものなのだ。
■夜間当直態勢の一例 ※新宿ヒロクリニックの場合
具体的に、新宿ヒロクリニックの夜間当直態勢を紹介しよう。
新宿ヒロクリニックには、常勤の医師6人、非常勤の医師20人弱が在籍している。常勤の医師がそれぞれ患者を受け持ち、主治医となっている。非常勤の医師は、通常の患者は持たず、当直に入る。
夜間の当直時間帯は、この非常勤の医師と看護師、事務職のコーディネーターが3人一組のチームとして待機している。患者・家族から電話があると、看護師かコーディネーターが対応し、その患者の主治医に連絡し指示を仰ぐ。
主治医が患者の自宅に電話をして、それだけで済むケースもあれば、往診が必要なケースもある。後者の場合は、「これから当直の医師を往診に向かわせます」と伝え、当直チームに往診を指示する。当直チームは3人一組で往診に向かう。
■主治医が司令塔になり信頼関係を築いていく
このシステムでは、主治医自身が夜間往診することはないが、往診すべきかどうかなど、すべての判断は主治医に任せられている。患者・家族のことを熟知しているのは主治医だからだ。