ところが、初回にいきなり失点。5回にも若月健矢、T-岡田に連続本塁打を浴び、0対3とリードを広げられる。味方はその裏、中村晃の右越えソロで1点を返すも後が続かない。千賀が6回で降板した時点で、1対3の劣勢だった。

 もし負け投手になると、13勝5敗の勝率7割2分2厘となり、2位のチームメート・東浜巨(7割6分2厘)に抜かれてしまう。ソフトバンクは7回に1点を返したが、8回を終わって2対3。逃げ切りを図るオリックスは最終回、守護神・平野佳寿を投入してきた。ベンチで見守る千賀もあきらめの表情になった。

 ところが、9回2死二塁、あと一人でゲームセットという緊迫した状況で、上林誠知が右前に起死回生の同点タイムリー。この瞬間、千賀の黒星は消え、最高勝率の初タイトルも確定した。

「(タイトルは)ないと思っていたのが手元に来て、うれしいのはもちろん、不思議な気持ちになった。ありがたいし、点を取ってくれた野手の皆さんに感謝したい」(千賀)

 まさに「上林様様」だが、意外にも当人は何も知らず打席に入り、「ベンチに戻ったら、千賀さんが来て『ありがとう』と言われて、そういうことか!」とあっけらかん。美談仕立ての記事を書こうとしていた記者たちも、思わず拍子抜けするオチだった?

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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