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元フリーキャスターの小林麻央さんが2017年6月、34歳の若さで亡くなった。最期を迎えた場所は、家族と過ごすことができる自宅だった。好評発売中の週刊朝日ムック「さいごまで自宅で診てくれるいいお医者さん」では、ベストセラーとなった『「平穏死」10の条件』などの著書がある長尾和宏医師に、その選択の意義について語ってもらった。
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自身の病状や感情をここまで素直にかつ詳(つまび)らかにブログでつづった有名人がこれまでいたでしょうか。若くて美しい芸能人ほど、がんになった自分の姿を隠したがるものですが、小林麻央さんは死の2日前までブログを更新しました。
■家族の顔を見て過ごし痛みが少ない
彼女が最期の場所、「平穏死」の場所に選んだのは自宅でした。その選択のカギとなるのは、小さい子どもです。小さい子どもは、病院に泊まることができません。子どものために長くいっしょにいたい、子どもの中にちょっとでも自分の記憶を刻みたい。そう思って、自宅を選ぶ場合が多いです。「在宅を選んだ」というより「子どもを選んだ」というほうが正しいかもしれません。しかし、それは最良の選択でした。
多くの人は、病院を退院することを心配したかもしれません。在宅医療は、病院よりも痛くてつらいのではないかと思っている人がまだ多いですが、むしろ、家族の顔を見て過ごせるので痛みが少ないことが多いのです。
病院から退院した日のブログには、「やはり我が家は最高の場所です。」「今日から、自宅でお世話になります!!」とつづられている。その後も「昨日は一日、(中略)痛みで七転八倒していました。ですが、夕方最終的に、在宅医療の先生に相談し、忘れていた座薬を試したら、ようやく落ち着くことができました。」「今朝も在宅医療の先生がいらして、症状に合わせ、お薬や点滴の量を調整して下さいました。心強いです。」と書かれています。
当初は在宅医療に不安があったようですが、徐々に信頼していった様子がうかがえます。自宅でも病院と同様の緩和ケアを受けられることを世間に知らしめたと思います。麻央さんは、在宅医療のよさを理解し、笑顔で、愛する家族に見守られながら、自宅で旅立たれました。まさに、自宅という「最高の特別室」での平穏死でした。偶然ではありますが、多くの人に、在宅医療のよさを知ってもらう機会になったと思います。
長尾和宏(ながお・かずひろ)/医師。医療法人社団裕和会理事長、長尾クリニック院長、日本尊厳死協会副理事長