2018年4月1日で廃線になるJR西日本・三江線。理由は利用客の減少と、並行道路が整備されたとされているためだが、廃線を前に大勢の鉄道ファンが殺到しているという。
“乗り鉄”記者がさっそく乗車したところ、奇異な現象が……。
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三江線はゆっくり進む。広島県三次駅から島根県江津駅、全長108.1キロの距離を、約4時間かけて日本海へと走り抜ける。その平均速度は、時速30キロにも満たない。同じ区間を車で走れば、下道でも2時間で走り抜ける。そんな非効率とも言える移動手段を“乗り納め”することにした。
12月15日朝5時20分、まだ日も昇らぬ暗闇の中、三次駅(広島県三次市)の構内には既に始発列車が停泊していた。車内の明かりは灯っており、人影も多く見える。だが、早朝のため駅員は一人もいない。無人の改札を通り抜け、路線橋の階段を上る。するとそこには、「三江線ご利用のお客様へご案内とお願い」と書かれた張り紙が。なんでも、三江線が多客期間のため、列車に乗る際の列の並び方を示したもののようだ。それだけ、鉄道ファンが大挙しているようだ。
車内に入ると、既に多くの人が席に座っていた。ロングシートと呼ばれる縦長の席には若干の余裕があり、空いているところに記者は座る。平日の金曜日であるものの、乗客は皆、自分と同じ旅行客の身なりをしている様子だった。全国のJRの普通列車が乗り放題の「青春18切符」の期間中の影響もあるのだろう。一方で、大きな荷物を背負って行商に出かけるような人や、通勤・通学のために乗っている感じの乗客は見られなかった。皆、この一番列車に乗るために、三次市内の宿泊施設に泊まり、こうして集まっているとみられる。記者もその一人だ。
三江線一番列車は午前5時38分に三次駅を発車する。この列車が三江線全線を北へ縦断する唯一の編成だ。この一番列車は江津から山陰本線に入り、さらに浜田駅まで直通する。この始発を逃すと、次の列車は4時間半後の10時02分。かつ終点の江津駅まで行こうとすると、途中の石見川本駅で1時間半にわたる乗り換えが必要となる。乗り換え込みでも、終着駅の江津まで行くダイヤは一日3本しかない。
その後も列車に乗り込む乗客は続く。午前5時38分、三次発浜田(山陰本線)行きの一番列車は、座席をほとんど埋めた状態で定刻通り発車した。暗闇の中を、列車はゆっくりと進む。外の明かりもほとんどなく、真っ暗で景色は何も見えない。地図上では、三江線は「江の川」という中国地方最大の大河に沿って、日本海へと下るルートを辿っているが、それも闇の中ではわからなかった。