出稼ぎで外国に来る人たちは、働いて金を故郷に送るため、日々の暮らしにお金をなるべくかけないようにする。そのため、家賃の安いスラム街に住み着くというのは、決して珍しいことではない。この街のように中心部にあるスラムならばなおさらである。

 その男性が教えてくれた家賃は、日本円でおよそ2万9000円。これは香港では破格である。香港在住の友人たちに聞くと、一般的な家族が暮らすことができる1~2DKの家賃の相場は15万~20万円ぐらいだそうだ。さらに気になったのは彼が家賃を払っているという、そのこと自体である。スラム的な雰囲気の漂うビル屋上の掘っ立て小屋のようなところで、家賃の徴収がなされているうえに、光熱費も支払っているというのだから、インフラ設備も整えられているということだろう。

 そのあたりのことが気になったので、ビルの管理人に話を聞いてみることにした。

 1階に下りると、エレベーター近くに置かれた椅子に腰掛けて暇そうにしている老人がいた。おそらく管理人だろう。

「Are there persons on the roof?」(屋上に住んでいる人たちがいますよね?)

「Yes.」(いるね)

「Do they pay monthly?」(あの人たちって家賃を払っているんですか?)

「Yes. They were accepted by the owner.」(払っているよ。オーナーが許可している)

「Why?」(どうしてですか?)

「He want to use rooftop space. Hong Kong is very small country.」(今はあんなスペースでも有効活用しないといけないんだ。香港は狭いから)

 住人の男が言ったことは間違いないようだ。だが、これ以上聞くと、「お前こそ取材の許可を持っているのか?」とやぶ蛇になりそうだったので、お礼を言って立ち去ることにした。

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世界でも珍しい香港スタイル