実は、その情報の種は以前入手していた。海外配信されたニュース・コラム。そのなかに記載されていたのは香港の住宅事情を伝えるものだった。そこにビルの屋上に暮らす人々がいるというようなことが掲載されていた。それ以上のことはわからなかったものの、取材にとりかかる確信を得るには十分な材料である。

 これまで水平、ないしは、地面に向けてきた目線を上空に向ける。旅行者がビルの上を見ることなど滅多にないだろう。しかし、そうすることで一気に香港の見え方が変わった。

 立ち並ぶビルの屋上に何かしらの人工物が見えるのだ。

 私はそれらのビルの屋上を目指した。

 人工物がありそうなのは、どこも15~16階で、古いところが多くエレベーターがないビルもあった。簡単に部外者が入れるようなビルを見つけられることもなく、いくつかのビルを階段で上ったり下りたりして、ようやく屋上に入れるビルを見つけたころには、私の膝はかなりガクガクになっていた。

 屋上に出ると、何軒ものバラック小屋が立ち並んでいた。アジアや世界各地でよく見てきたスタイルである。建物の縁に行って下を見ると、そこは紛れもなくビルの屋上であることがわかる。そして、ここで当然の疑問が浮かぶ。

 いったいどんな人が住んでいるのだろう?

 その疑問を解消するべく、住人に接触してみることにした。階段の踊り場で待っていると、何人かが通りすがるが、こちらが英語で話しかけると、地元の人ではないことがすぐにわかったのであろう。いかにも面倒くさそうな表情で立ち去っていった。ようやく話を聞かせてくれたのは意外な相手だった。これまでと違ってイスラム服を着ており、ひと目で彼が香港人ではないのがわかる。

「I am a Japanese journalist.」(日本から来たジャーナリストです)

「……」(無言)

「Please give me a minute. I want to talk with you.」(お話を聞かせてもらえませんか?)

「…Yes.」(……いいですよ)

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