「庶民だけが損している」と言うつもりはありません。まじめに日本で税金を払っている日本の大企業もタックスヘイブンの被害を受けていると言っていいと思います。中国やアメリカの企業がタックスヘイブン(租税回避地)を使った税逃れに貪欲なのに対し、言葉の壁もあり、日本の企業はあまり積極的ではないようです。日本企業には地方税もあわせ三十数%の法人税が課せられるのに対し、海外の多国籍企業が15%しか納税していなければ、日本企業は20%ものハンディを背負わされることになります。国際競争の上で、これはとても大きなハンディです。 このハンディのせいで日本企業が海外の多国籍企業との競争に敗れるということになると、それは日本にとって国家的な損失です。

――正直者や弱いものがバカを見るのはおかしいですね。私たちにできることはあるのでしょうか?

 そういう状況を許している制度を改正する必要があり、そのためには、制度改正への世論の盛り上がりが必要だ、と思います。そのためには、もっともっと実態が知られる必要がある。特にパナマ文書以降、そう感じています。

 先日、「グローバル連帯税フォーラム」という市民グループと民間税制調査会が共催で「税と正義/パラダイス文書、グローバル・タックス、税制改正」をテーマにしたシンポジウムが青山学院大学で開かれました。私も見にいったのですが、その会場の熱気には驚かされました。「日本人は租税回避地の問題には無関心」とは必ずしも言えなくなってきている、そういう変化があるのかな、と感じました。

 かつてタックスヘイブンはなかば野放し状態でした。政治家とか大企業とかお金持ちとか社会的影響力の大きい層がタックスヘイブンをよく利用しているということがパナマ文書やパラダイス文書で分かってきていますが、そういうこともあって、意図的にタックスヘイブンは放置されてきたのかもしれません。しかし、近年、パナマ文書やスターバックスの税逃れなどの報道の影響もあって、租税回避地への対策が急速に強化されてきています。また、多くの多国籍企業は世論を敵に回すのは得策ではないと考え、少なくともポーズの上では、世論が強いアメリカやイギリスでは税逃れをやめ、納税をするようになってきているようです。批判的な世論が強ければ、租税回避はしにくくなり、歯止めになる。一般消費者を直接相手にする企業にとって、イメージダウンは大きな打撃になるからです。逆に言えば、国民がそうした問題に無関心で世論が甘い国では、租税回避されてしまう可能性が高いとも言えます。

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