もう一つ、世論が後押ししているのではないかと私が考えているのが「内部告発」です。パナマ文書にせよ、パラダイス文書にせよ、法律事務所の内部文書をその意思に反して大量に外に出したのですから、ふつうに考えると、盗みに当たるように見えます。でも、それに対する批判がほとんどない。特にヨーロッパでは、「すばらしい」「よくやった」という称賛の声が上がっている。正当な内部告発のための情報流出は違法性がなく、保護されるべきだという見方が強まっています。例えばタックスヘイブンと関係のある法律事務所などに勤めていて、データを持ち出せる環境にある人がいたとします。そんなとき「間違ったことをしている」という思いに駆られたら、内部告発を好意的に受け入れてくれる世間の風潮は、勇気を与えてくれるはずです。
意を決して内部告発した人が身元を暴かれたり逮捕されたりすることなく、守られることが重要です。近年そうした法整備が進んでいることも、内部告発の増加につながっていると感じています。ちなみに、ICIJのメンバーはもちろん、データを入手した南ドイツ新聞の記者ですらパナマ文書の情報提供者の素性は知らないそうです。
世間が好意的に内部告発を受け入れるようになった背景には、ICIJや私たちジャーナリストが、内部告発者によってもたらされたデータを丁寧に扱っていることもあると自負しています。流出したデータを丸ごとそのまま公開するというような乱暴なことはしません。適切な分析と取材を重ね、相手にも言い分の機会を与え、きちんとした形で社会に提供する。今回のパラダイス文書まで続いた一連の大型金融リークではジャーナリズムの責務も改めて問われていると感じています。
(取材・構成/中津海麻子)