婦人科がんの摘出手術後に発症することが多く、重症化すると日常生活を送るうえでも支障をきたすほど、手や足がむくむリンパ浮腫(ふしゅ)。

 リンパ浮腫は、リンパ節とリンパ管が本来持っている、水分やたんぱく質などを吸い上げる機能が低下することで発症する。治療はむくみを抑える内科的な処置が有効とされてきたが、間違った診断と治療で悪化するケースも見受けられる。

 さいたま市に住む主婦の富田由美子さん(仮名・61歳)は2001年に子宮頸がんのため、子宮と膣の一部、子宮付近のリンパ節を切除する「広汎(こうはん)子宮全摘出術」を受けた。術後の経過は良好だったが、少しずつ左足にむくみが現れ始めた。3年が経ったころには見た目でもはっきりわかるほど左足がむくみ、右足よりも赤くなり、発熱にも悩まされるようになった。受診した大学病院では、手術でリンパ節を切除したことによる「リンパ浮腫」と診断された。

 大学病院でリンパ浮腫と診断された富田さんは、医師の指導に従い、左足にたまった水分やたんぱく質などをリンパ管に送り込むマッサージ法「リンパドレナージ」を週2~4回受け、弾性包帯で患部を圧迫する「弾性包帯法」を実施した。しかし、4カ月たっても改善しない。発熱こそないが、足のむくみと赤みは治まらなかった。そんな折、看護師からリンパ循環を専門にしている広田内科クリニックを紹介され、05年3月に訪れた。

 同クリニックの院長、廣田彰男医師はまず、むくみではなく炎症を抑える治療を実施した。実はこのとき、富田さんはリンパ浮腫患者に多い「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」という炎症を起こしていた。

 リンパ浮腫患者が蜂窩織炎を発症しやすい理由は、次のとおりだ。リンパ浮腫の患部には水分とたんぱく質がたまっているため、わずかな細菌が侵入しただけでも増殖しやすい。その結果として強い炎症が起こると、毛細血管から大量の水分が出てくるためにさらにむくんでしまい、炎症も悪化してしまうのだ。

「リンパ浮腫に対しては圧迫をしてむくみを抑える治療が選択されますが、蜂窩織炎を起こしているときに圧迫をしても改善しません。同時にマッサージもすると、余計に蜂窩織炎が悪化してしまいます。そのような誤った治療をして、病状を悪化させてしまうケースが多くみられます」(廣田医師)

※週刊朝日 2012年9月21日号