そのときのために、吉村を温存したいという考えもあるだろう。追いついて延長戦に突入したケースも想定しないといけない。しかし今は短期決戦だ。チャンスで一気に攻め立てる。何としても追いつく──。そんなベンチの強い思いを見せるためにも、代打の代打を告げるべきだったのだ。
ところが、工藤監督は追加の手を打たなかった。
結果は、長谷川勇の遊ゴロ併殺。今月6日の試合で代打サヨナラ弾を放った右の代打・吉村という“とっておきの切り札”を使わずしてチャンスは潰えたのだ。試合後、工藤監督はこう語った。
「代打の代打。それはひとつあったかもしれないけど、先も考えたら(長谷川勇を打席に)立たせておくというのは、僕は大事だと思いました」
一塁にヘッドスライディングする必死の姿を見せた長谷川勇をかばう意味もあったのだろう。しかし、指揮官のこの言葉はシーズン中ならまだしも、短期決戦にもかかわらず「先を見越して」というロジックになっている。その後、2点のビハインドでも、リバン・モイネロ、岩崎翔と勝ちパターンの投手つぎ込むなど、短期決戦型の継投を見せながら代打策はシーズン仕様。その矛盾が初戦の勝敗を分けてしまったのだ。
さらに19日の2戦目も、1点を追う7回に初戦と同じような場面が巡ってきた。1死二塁で、打順は9番の上林誠知。今季ブレークした22歳の若き左打者には、FSでまだヒットが出ていない。マウンド上は、左の高梨だ。ここで吉村を出せば、楽天は右のセットアッパー・福山博之を投入してくるだろう。上林を引っ込める代わりに、高梨もマウンドから降ろさせる。ファーストステージから戦っている楽天は福山の疲労度を考えても、たとえ打者ひとり1人でもその場面で出したはずなのだ。
しかし工藤監督はここでも、上林をそのまま打席に送った。結果は空振り三振。続く2死二塁、1番の川島を迎えたところで、楽天は福山を投入。そこで代打・長谷川勇が告げられるのは承知の上。前夜の長谷川の状態と福山の調子を踏まえれば、抑えられるという楽天側の読み通りに長谷川は一ゴロ。同点のチャンスを逃してしまった。