「6年前、3年前と増えていったら面白いでしょう? それに3年後の撮影のために、僕も元気じゃなきゃいけないし」(渡辺さん)
もちろん、嵐山さんと南さんとも3年後の約束を誓い合った。
「3年後、渡辺さんにまた写真を撮っていただけるのであれば、また嵐山さんとそのあとに一杯やるってことも含めて楽しみ」(南さん)
後日、二人に写真が届けられた。嵐山さんは妻に手渡し、「大事に保管しておくように」と依頼。南さんも「妻も気に入ってくれました」と言い、大切にしまっているという。
■笑顔いっぱいの写真が、葬儀で使われたことも
渡辺さんが撮影した「寿影」は、もう何人かの葬儀で実際に使われたことがある。大きな笑顔の写真が祭壇に飾られているのを見た時、遺族や参列者の反応が気になった。
「葬式なのにあんな笑顔だからね。でも、みんなが『あの笑顔いいね』って言ってくれてね。手にしている宝物から話が広がったりして。本当によかったと思ったよ」(渡辺さん)
ところで渡辺さん自身は、どんな「寿影」を用意しているのか?
「僕には22人の助手がいて、みんなが僕を撮っているから何百枚もある。その中から1枚を選ぶなんてできないし、そもそも葬儀なんかするつもりもないんだけど」
死後、知り合いが集まって飲み会をしてくれるのなら、会場の片隅にヘラヘラと能天気な顔でピースした渡辺さんの写真がぽつんと飾られているくらいがいいという。
自分の葬儀はともかく、今はもっと大勢の人を撮りたいという渡辺さん。それは撮っていて自分が楽しいからだ。そして、それらの「寿影」はどれもいい笑顔に満ちている。
(文/吉川明子)
<プロフィル>
渡辺達生/1949年、山梨県生まれ。大学在学中から女性のグラビア写真を撮り始め、「週刊ポスト」「週刊文春」「週刊プレイボーイ」などで活躍。「寿影」は「六本木スペース ビリオン」と、小学館が主宰する「サライ写真館」で撮影可能
※週刊朝日ムック「高齢者ホーム 2018 プロに教わるやすらぎの選びかた」から