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自分の遺影を考えたことがあるだろうか。いざという時、“いい写真”がなくて困る遺族が多いそうだ。元気なうちに撮っておくのも準備のひとつ。週刊朝日ムック「高齢者ホーム 2018」では、カメラマン・渡辺達生さんが生前に撮影する「寿影」の取り組みを取材。その撮影現場をのぞいてきた。
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写真スタジオに姿を現したのは作家・エッセイストの嵐山光三郎さん(75)と、イラストレーターの南伸坊さん(70)。実はこのお二人、「週刊朝日」で1千回を超える名物連載「コンセント抜いたか」での名コンビ。とにかく仲の良い二人はこの日、「遺影」を撮りに来た。撮影はカメラマンの渡辺達生さん(68)。女優やアイドルなどを40年も撮り続けてきたグラビア撮影の第一人者だ。
渡辺さんは今、生前に撮影する「寿影」に取り組んでいる。
「遺影っていうと、やっぱり“遺”という字が強いからね。“寿”のほうがきれいでしょ?」(渡辺さん)
渡辺さんが「寿影」に興味を持ったきっかけは義父の死だった。葬儀で自分が撮影した写真を飾ろうとしたら、義母に拒否された。
「『夫はもっといい笑顔だった』といって、葬儀社が加工した写真を選んだんです。それがカメラマンとして情けなくて」(渡辺さん)
まずは同級生などの友人に声をかけて撮り始めた。渡辺さんはいつも「何か一つ宝物を持ってきて」とお願いしており、二人も持ってきた。
嵐山さんの宝物は、作家・山口瞳さんの形見であるボルサリーノのソフト帽子と、30年前にカイロ博物館で買った、アメンホテップ4世の正妃像のステッキ。南さんの宝物は、中国旅行中に見つけた、相撲をとっている子どもの陶磁製人形だった。
撮影は嵐山さんから始まった。この日は華やかなアロハシャツに麻のスーツ姿といういでたちだ。
「山口さんは68歳で亡くなったけど、家が近所で仲良くしてくれて。この帽子もずっと使ってたら、縁がはげかかってきちゃって」(嵐山さん)