厳しい時期を経験したという点では、ダルビッシュだけでなく、今季途中からその同僚になった前田、ヤンキースの大黒柱を務めるはずだった田中、そしてシーズン終盤はケガに苦しんだ上原も同様だ。

 今季13勝6敗という一見すると優れた成績を残した前田だったが、故障者リスト入りも味わい、ダルビッシュ加入後のシーズン終盤は再びブルペンに送られた。防御率(3.48→4.22)、投球回数(175回2/3→134回1/3)は前年比で大幅にダウン。ポストシーズンでの登板機会はリリーフに限られそうだ。

 ヤンキースの開幕投手を務めた田中も13勝(12敗)を挙げたものの、リーグワースト3位タイの35被本塁打を許し、防御率4.74も自己ワースト。好調時には快刀乱麻で魅せる一方で、自責点7以上が5戦と今季はとにかく波が激しかった。おかげで2年前には先発したワイルドカード戦での登板は叶わず、プレーオフで先発するためにはチームに地区シリーズに進出してもらわなければならない。

 49試合で3勝4敗2セーブ(防御率3.98)という数字を残した上原は、背中の痛みなどで9月2日を最後に登板機会がないままシーズンを終えた。地区シリーズではロースター落ちが濃厚。今後カブスが勝ち進んだとして、戦力になるだけの体調が整うかどうかは微妙と言わざるを得ない。

 ここまで挙げてきた4人の日本人投手にとって、今季は必ずしも最高級とはいえないアップ&ダウンの激しい1年だった。そして、そうだからこそ、ポストシーズンでの働きが重要になるのだろう。米国のスポーツファンは現金なもので、この季節に大舞台で好投すれば今シーズン全体が正当化される。プレーオフで勝負を決めるような活躍をすれば、一躍地元の英雄になる。

 今秋、“インスタントヒーロー”になるのはダルビッシュか、前田か、あるいは田中か。それとも上原が奇跡を起こすか。例年、さまざまなドラマが生まれるポストシーズンで、今季に挫折を経験した4人の右腕から目が離せない。(文・杉浦大介)