感情が収まってしまえば、そのことは「あまり気にならなくなる」。でも、私たちは、つい我慢したり、無理に忘れようとしたりするので、この自然なプロセスが阻害されて、(2)の「警戒」段階で感情が停滞してしまうことが多いのです。忘れているつもりでも、無意識に相手に対する警戒が続いているような状況です。
■感情発生! そのときに使えるツールをリスト化しよう
感情の停滞を打破するためには、どうしたら良いでしょうか。私がこれまで行ってきた自衛隊員のメンタルトレーニングの中から、「これは効果がある」と実証できたものを、「感情ケアプログラム」として、昨年一般向けに発表しました。
このプログラムには、感情を「下げる」「触れる」「考える」の3つのカテゴリーがあります。今回はその中から、「下げる」方法をご紹介しましょう。
先ほどの、同僚とケンカをしてしまったときのように、「怒り」の感情がバーンと発生したとしましょう。まず大切なのは、「それ以上の刺激を避ける」「簡単に衝動的な行動をしない」こと。怒りの大波は「6秒から10秒まで」。まずはグッと我慢するなどして、最初の波だけやり過ごします。
ピークを超えたら、ポイントは3つです。
1つ目は、引き続き、追加の刺激を避けること。できればその場を離れ、注意を他に向けてみてください。2つ目は体を緩めること。3つ目は、安心すること。家族や恋人とくつろいでいるなど、イメージや雰囲気をうまく使って安心できると、感情は収まりやすくなります。
さらに、感情を「下げる」方法として、自分なりの気持ちが落ち着くツールを予め決めておいて、パニックになっても思い出せるようにしておくことがおすすめです。
ちなみに、私の場合は、「呼吸」「1人になる」「コーヒーを飲む」「チョコレートを食べる」「(孫の)動画を見る」「歩く」「テニス」「書く」「寝る」。
頭文字をとって、「コーヒー(コーヒー、チョコ、呼吸、1人になるを含む)、どう? あてかね?」と覚えています。感情がバンと発動したときに、この一文を思い出して、その場ですぐにできる行動をとることで、感情をうまく「下げる」ことができます。
私の知り合いには、自分なりの「感情を下げる行動リスト」をお財布に入れている人もいます。要は、感情が強く発動したときに、自分が思い出して使えればいいのです。
これまでカウンセラーとして、多くのケースに接してきました。確信を持って言えるのは、対人トラブルは解決を図ろうとしても、他人は簡単には変わらない。自分で自分の感情をケアするほうが省エネで、“戦略”としても圧倒的に有利だということです。
自分の感情さえ収まれば、人間関係の問題は、問題でなくなるのです。(構成/ライター・向山奈央子)