ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・ライター、お笑い評論家。お笑いWEBメディア『オモプラッタ』の編集長を務める。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、 『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)など著書多数。http://owa-writer.com/blog/
現在放送中のドラマ「カンナさーん!」で主演を務めているのは、芸人の渡辺直美。子育てや家事をしながらファッションデザイナーの仕事を続けるパワフルな女性の役を演じている。若者たちのファッションアイコンとして知られる渡辺にはまさにぴったりの役柄。下馬評を覆して視聴率も2桁をキープする人気ぶりとなっている。
ここ数年の渡辺の活躍にはめざましいものがある。インスタグラムでアップする写真がオシャレで面白いと評判になり、フォロワー数で日本一になった。ぽっちゃり体型の女性向けのファッションブランド「Punyus」をプロデュースしていて、ファッションイベントへの出演も多い。いまや芸人という枠を超えて幅広い分野で活動している。
しかし、渡辺はこの地位を築くまでに人知れず苦労を重ねてきた。デビューしてすぐにビヨンセの口パクものまねのネタでブレークしたため、一見すると順風満帆の芸人人生に見えるのだが、本人はそう思っていなかった。
もともと渡辺は、ネタ、大喜利、フリートークなどの芸人的な仕事を苦手としていた。ビヨンセのネタで注目されてすぐに「笑っていいとも!」のレギュラーに抜擢された。だが、トークが不得意な彼女はバラエティ番組で自分の持ち味を出すことができず、内心では焦りを感じていた。
この時期の渡辺をライブで見たことがある。ピン芸日本一を決める「R-1ぐらんぷり」の予選として行われたライブで、渡辺は歌やダンスを使わない芝居仕立てのコントを演じていた。だが、そのネタはお世辞にもクオリティが高いとは言えない代物だった。すでに渡辺の顔と名前は知られていたにもかかわらず、ネタの最初から最後まで客席は静まり返っていた。
お笑い界では「ネタやトークができないと一人前の芸人ではない」という考え方が根強い。言葉を使わず、動きや表情だけで笑いを取ろうとする渡辺のスタイルはなかなか理解されなかった。
当時そんな彼女を励ましてくれたのがオリエンタルラジオの中田敦彦だ。「武勇伝」という新しい形のリズムネタで渡辺よりも一足先にブレークしていた中田は、彼女の苦悩をよく理解していた。中田は渡辺にアドバイスを送った。