「彼は児童の家族代わりになろう、一番近い存在になろうとしたのだと思います。離婚するつもりはありません。今後は私がフルタイムの仕事をして彼を支えたいと思います」
妻は一貫して夫をかばい通した。被告人の両親も息子を見守ると言っているらしい。身内が見放さないのは被告人に甘いだけなのか、それとも生徒との関係に同情すべき点があるのか。それを聞かずして、エロ教師と決めつけることはできない。一線を越えてしまったのは、教師を慕う生徒の取り扱いを誤ったが故かもしれないからだ。
犯行を一方的に責めるのではなく、自分の存在もストレスの要因になっていたことを認める。身内が一丸となって更生に協力すると誓う。失職した夫に代わって自分が働き経済的にも支えていく。夫とは対照的に涙も流さず、情状証人の役割を完璧に果たした妻が傍聴席に戻ると裁判長が言った。
「では被告人質問に移ります」
さあ、メソメソしている場合ではない。出番だ。
担任教師が高校2年の女生徒とホテルに行くに至る、禁断の恋。ハンカチをポケットにしまい、その全貌を語るべく被告人が立ち上がった。
被告人は高1のときから被害者である女生徒の担任教師だった。とくに目立ったところのない生徒だったが、1年次の終わり頃、相談メールを受け取る。
「親とうまくいかない。会話がなくメールでやり取りしている。クラスの生徒とも話が合わない。どうしたらいいのか、という内容でした」(要旨)
教師が突き放せば、ますます生徒は追い込まれる。ここは親身に相談に乗るべきだ。そう考え、新学期に入ると精力的な<救済活動>を行うようになったという。メールをやり取りしてアドバイスする、校内の相談室で話す機会を作る、部活の部室に顔を出す、ときには一緒に下校する、などだ。
違和感を覚えるのは、被告人の関心が生徒に集中していること。悩みの根っこは家庭にあるのだから、30代前半(推定)とはいえ、それなりにキャリアを積んだ教師なら、まず親と話し合おうとするのが普通だと思うのだ。生徒の話だけ聞いていても客観的な情報は得られない。