始めた以上はそうカンタンに泣き止むこともできず、嗚咽をBGMに証言がスタートした。事件について妻は、逮捕されるまでまったく知らず、知っていたら全力で止めていたと語る。「夫婦の仲は普通だろうと思っていましたが、いま考えると、とても冷たい家庭だったと反省しています。事件の日、彼とは別々に行動し、メールの反応がないので忙しいのかなと。警察から連絡が入ったときは信じられず、力が抜けてしまいました」(要旨)
落ち着いた態度から、この日に備えて頭を整理してきたことがわかる。夫を責めず、自分にも責任があるかのような言葉からは、被告人をかばう気持ちが察せられる。弁護人の質問が夫婦仲の話から始まったところをみても、被告人が生徒に手を出した事件と考えて間違いなさそうだ。
「どんな連絡でしたか?」
弁護人が話を促す。
「被害に遭った女子生徒とホテルに行き、出たところを逮捕されたと」
被告人、そんな大胆なことをしたのか。しかもホテルを出たところで逮捕とは。
信じていた夫が、よりによって生徒とホテルに行き、逮捕までされたと警察から電話がかかってきたのだ。何のことだかわからないほどのショックだっただろう。それでも妻は数十回も面会に行き、性犯罪の本を差し入れたりしている。夫を支えられるのは自分しかいないと考えてのことだろう。素晴らしいではないか……、ちょっと、BGMうるさいよ。号泣するのは勝手だけど、証人の話をちゃんと聞け!
逮捕後、妻の取った行動は見事なものだ。夫と生徒が交わした1400通近いメールを時系列で整理。担任教師と生徒の関係が親密になっていく過程を、泣きながら確認していった。同時に、なぜこんなことになったかを分析。8年連続で担任するクラスを持った責任、さめた夫婦関係、家でもパソコンにかじりついていないとさばけない仕事量。複数のストレスが積み重なり、常識はずれの行動に至ったと自分なりの答えを出した。
被告人は妻から見て、一所懸命な教師だったという。類似の事件が報道されるのを見ても、子どもに手を出すなんてあり得ないと言っていたらしい。事件の発端については、生徒から家族についての悩みを相談されたことだと取り調べで語ったが、それについても妻の見解はおだやかで優しい。