ともに異次元とも言える記録。4×100メートルリレーでも3走を務めて37秒10の世界記録に貢献したボルト。レース後や記者会見での気さくな受け答えとともに、一躍世界中が注目する、愛されるアスリートへと変身したのだ。
その時点でボルトはまだ22歳になったばかりの若さ。その勢いはまだ止まらなかった。翌09年の世界選手権では100メートルの記録を9秒58まで伸ばし、200メートルは驚異的とも言える19秒19をマーク。200メートルの18秒台突入も彼なら夢ではないと思わせたのだ。
その後は記録の伸びは止まっているが、その走力の凄さは異次元だ。100メートルの世界歴代2位はタイソン・ゲイ(09年)とヨハン・ブレイク(12年・ジャマイカ)が出した9秒69で、0秒11差がある。また200メートルは11年のブレイクの19秒26が2位。その歴然とした力の差に加え、五輪や世界選手権ではフライングで失格した11年世界選手権の100メートル以外はケガで不調がささやかれている時でさえシーズンベストを出してくる調整力の高さで、その王座を堅持し続けているのだ。
そんな怪物・ボルトがロンドンにはどんな状態で臨むのか。6月の2レースはまだ本調子とは言えず、10秒03と10秒06に止まったが、7月21日のモナコでは9秒95と調子を上げていて、8月1日のロンドンでの会見でも「世界選手権に出場する時はいつだって準備万端で、100パーセントの自信がある」と明るい表情を見せていた。
それに対してライバルは、今季最高は6月に9秒82を記録したクリスチャン・コールマン(米国)で、2番手がジャマイカ選手権で9秒90を出したブレークと、そこまで突出した選手が出てきていない状況だ。リオ五輪では9秒91で3位になった22歳のアンドレ・ドグラス(カナダ)が6月に追い風4・8メートルの参考記録で9秒69を出しているが、公認記録のベストは10秒01で力は未知数だ。
ボルトのこれまでの五輪と世界選手権で最も低い100メートルの記録は、昨年のリオデジャネイロ五輪の9秒81。そのレースでさえ2位のジャスティン・ガトリン(米国)には0秒08差をつけていた。その勝負強さは健在なはずで、最後のレースも優勝で飾る可能性は高いだろう。
100メートルの結果が出るのは8月5日、現地時間21時45分から数秒後だ。(文・折山淑美)