非常に残念なことながら、日本ハムを除く今の日本の球団の多くは、元日本人メジャーリーガーの価値を感じているようには見えない。事実、彼らの幾人が、引退後にアメリカへと舞い戻っているし、ホワイトソックスが「日本の野球を組み入れたい」と口にしているようなことを日本では聞かない。
筆者はある雑誌で「日本はアメリカから何を学んだか」という連載を特集した。田口壮(オリックス2軍監督)氏をはじめ、吉井理人(日本ハムコーチ)氏、白井一幸(日本ハムコーチ)氏、小島圭市氏(元ドジャーススカウト)、平林岳氏(パ・リーグ審判技術委員)、高津臣吾氏(ヤクルト2軍監督)、斎藤隆氏(パドレスアドバイザー)らメジャーの野球に関わった人物を取材したが、彼らの取材を通じて分かったのは、異文化を知った彼らには、たくさんの発想や視点が生まれているということだった。
日本球界のトップに君臨する選手たちが活躍の場をアメリカに移すたび、古参の評論家から「日本野球の空洞化だ」という嘆きの声が聞こえてくるが、日本人がメジャーリーグに挑戦することの意義というのは、彼らの成功や失敗、日本球界に短期的に有名選手が流出してしまうことだけではない。その身一つで世界へ挑戦していった人物たちが異文化を知り、何を学んできたかにあり、それをどう日本野球界に生かすかだろう
「もう少しメジャーでやりたかったんですけど、35歳という年齢もあったし、日本人内野手として、日本の選手にも伝えたいことがあった。コーチにガンガン言われて悩んでいる子がいっぱいいるので、いろいろアドバイスができたらいいなと思った」。
井口はメジャーから日本球界復帰の理由をそう語り、野球界に尽力してきた一方、こんなことも話している。
「斎藤さんがパドレスのフロントに入って勉強すると聞いた時(2015年)、やっぱり(メジャーに行った人たちは)みんな考えることは一緒だなと思いました」
「井口資仁」という財産を、日本の野球界は活かすことはできるのか。それとも、彼もまた、海を渡ってしまうのだろうか。(文・氏原英明)