それに比べて、日本の民泊業界は完全に出遅れてしまって、周回遅れどころか、もう追いつく見込みはないという声さえ聞こえる。
さらに、今回の規制改革実施計画を見ると、米ウーバーなどが世界で急拡大しているライドシェアの解禁には全く触れていない。今は国家戦略特区で一部の過疎地域で極めて制限された形態で認めているが、都市部となると、やはり、タクシー業界の反対が怖くて手が付けられないのである。
この分野でも中国企業の成長は著しく、独占的先行企業である滴滴出行の2015年の年間配車件数は14億3000万に達したという。今や、Appleも10億ドルの投資を行い、その成長性にお墨付きを与えている。
中国のシェアリングエコノミーは毎年倍々ゲームで成長し、その経済規模は日本の千倍超とも言われる。
このまま、既得権擁護の姿勢を続ける安倍政権が続けば、今後最大の成長分野の一つであるシェアリングエコノミーの世界は米中だけの争いとなり、日本は完全に置いてきぼりになる可能性が高いのである。
●「安保優先」こそ「いまそこにある危機」
では、なぜ、安倍政権では、これだけの高支持率にもかかわらず、規制改革が進まないのか。先に紹介した日経新聞の小見出し「安保に偏り」という言葉がすべてを物語る。
高い支持率は何のために使われるかというと、安保関連の政策実現のため。国家安全保障会議設立、武器輸出解禁、特定秘密保護法、集団的自衛権行使容認、駆け付け警護などの自衛隊新任務付与、そして共謀罪。いずれをとっても一内閣の命運をかけるような大仕事である。そういう意味では、結果を出す内閣なのかもしれない。
安倍内閣では、明らかに経済政策のプライオリティーは低い。規制改革で「余計な」政治的なエネルギーを使うことを避けて、とにかく見かけだけの「改革」を飾り付けることで、お茶を濁しているだけなのだ。
しかし、このままいけば、日本経済は、金融緩和による低金利で延命される企業と一時的な株高に浮かれる富裕層には恩恵を与えるものの、長期的には新規成長産業の芽を摘み取り、世界の競争から取り残されて国民生活は悪化し、「成長による財政再建」という安倍政権の方針はいつかとん挫することは確実だ。
その意味でも、安倍政権が、加計学園問題を切り抜けるための錦の御旗としている「規制改革」がいかに嘘八百であるのか。それをマスコミはしっかりと伝えてもらいたい。(文/古賀茂明)