適正AVは業界の自主的な取り組みであり、また適正ではないAV、いわば“不適正AV”を消費者が売り買いしたり、視聴したりしても法的な罰則があるわけではないという。

 とはいえ、どのように適正・不適正を判断するのか。AV出演強要問題では、事前に告げられた内容とは異なる撮影を女優が強要される例などが報告されている。密室で関係者だけで行われる制作過程を可視化することはできるのだろうか。

「適正AVの参加メーカーには、契約時に女優への撮影内容説明や事前の台本開示を徹底してもらいます。そして契約の様子を録画撮影し、データベース化することで、『言った』『言わない』の水掛け論を排除できると考えています」(山口弁護士)

 志田教授が補足する。

「具体的には、女優さんには契約前に台本を事前に見てもらい、一回は持ち帰って、ひとりで考える時間を作ってもらう。また、クーリングオフのように、契約を一度しても、出演者側が『やはり辞めたい』と言った場合は、その意思が優先されるルールも提言に盛り込まれています。また、女優さんが途中で降りた場合に違約金を請求することも禁止されます。違約金の存在が、女優さんが嫌々ながらもAVに出続けてしまう大きな要因であるためです」

 だが、懸念もある。こうした取り組みがメーカー側の負担になるのは明らかだ。
抜け駆け的にルールから逸脱した撮影を行うメーカーが出て来る可能性はあるし、その方が「売れる、もうかる」となれば適正AVの仕組みは瓦解(がかい)しかねない。

 それを回避するためには、出演する女性たちの意識が重要になる。

「適正AVのメーカーであれば安心して仕事が出来るという認識が広がれば、おのずと女優さんも適正AVにしか出演しなくなる。この風潮が出来上がれば、適正AVに参加していないメーカーも、作品をつくるために同じやり方に準ずるしかなくなる。これによって業界全体が改善されていくはずです」(山口弁護士)

 また、女性たちが自分たちの権利をしっかりと知ることも、AV出演強要問題を一掃するためには必要だという。

「女優さんからすれば、1対多数で囲まれた状態で、自分の不満を言えない状況で撮影が進んでいく。事前説明がないプレイを要求された時、『できない』と言えない空気を感じて、不本意ながら流れに乗せられてしまったというケースが考えられます。しかし、そんな時に自分には『NO』という権利があるのだと女優さんに知っていただくためにも、ルールの共有と可視化をめざしたい」(志田教授)

“適正AV”リリース開始は今年10月1日を予定している。AV業界が取り組み始めた“業界健全化”。その努力は実を結ぶのか、注目したい。(ライター・佐藤圭亮)