不登校の親たちが集まる「親の会」は実例の宝庫です。私が取材したAさんは、息子が中学3年生から不登校。不登校になるまでは明るくハキハキした子だったそうですが、しだいに元気を失っていったそうです。
学校から帰ると息子はふさぎ込むようになり、「学校のものに触るとジンマシンが出る」とも言いだす。ある日、家のなかで暴れだし、パソコンや窓をひたすら壊す、という事態になったそうです。
「子育てを失敗してしまった」
Aさんは、そう思い悩み、通い始めたのが、親の会です。
ほとんどの親の会では「講師」を担う専門家はいません。ふつうのお母さん、お父さんたちが集まり、自身の経験を話し合うのが一般的です。
一見すると「具体的な対策が見えないのではないか」と思うかもしれませんが、親の会は経験者どうしなので非常に実践的な意見が飛び交います。
「学校への出欠連絡は担任と話し合って『学校へ行くときだけにする』と決めたほうが楽」
「親が『とてもいい学校だ』と思っても、子どもが進学を求めてないならパンフレットはすぐに見せなくていい」
言われれば簡単なことかもしれませんが、不安や焦りが講じているときは、こうしたハウツーも役立ちます。また、ハウツーよりも役立つのが実際に親たちが経験してきたエピソードです。
「何度も怒って子どもを問い詰めてしまった」
「無理に子どもを引きずって学校へ連れて行き苦しめてしまった」
Aさんは「本で知識を得るよりも、実感のこもった話を聞くほうが断然よかった」と言います。使い古された言い回しですが「自分だけじゃなかったんだ」と。“失敗談”も、うまくいった話も、共感できる話も、それを聞いたからといって過去のことをやり直せるわけではありません。しかし、ほかの人の話を聞くことで「自分のことが冷静に見えてきた」とAさんは言います。Aさんが見えてきた「自分」とは「自分が不安で耐えられないから、子どもをどうにか変えたい気持ち」だったと言います。
自分自身が見えてきたとき、息子の気持ちも少しずつ見えてくるようになったそうです。それは自然と子どもの気持ちの沿った対応にまりますし、子ども自身が元気を取り戻していく過程へと進むことになったそうです。
やはり大事なのは経験値であり共感です。親の会は全国各地に少なくとも200団体以上あると言われています。古い団体では30年以上の歴史を持つ会もあります。不登校に悩んだときは、ぜひ親の会のドアを叩いてみてください。(文/石井志昂)
石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2 年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた