「乱用の恐れがある薬を一度に大量に購入しようとした場合、購入者に声掛けをするなど、販売者である薬局やドラッグストアに義務付けていますが、OTC医薬品(市販薬)は、消費者が選択をして購入するものなので、それでも法や制度で乱用を完全に防止することは難しいというのが実情です。厚生労働省の基本スタンスは、市販薬を飲む場合、定められた用法・用量を厳守してもらうよう指導することです」

 確かに、ドラッグストアなどでブロンなどを一度に複数購入しようとすると、ほとんどの場合「そんなに必要ですか?」などと声をかけられる。厚生労働省の調査では、大量・頻繁購入者に応対した薬剤師の81.4%が「使用目的の確認」を行っているという。しかし、繁華街を歩けば短時間で複数のドラッグストアをはしごすることは容易だし、近年ではネット通販でも市販薬は購入できる。これでは抑止力にはならない。

「市販薬の乱用への対応の難しいところは、実態を把握することが困難なことです。全国民に『あなたは乱用者ですか?』と尋ねるのは不可能だし、本当のことを語るとは限らない。そもそも乱用とはどの程度薬を飲むことを指すのか、例えば生理痛がひどくて、つい用法・用量を超えて飲んでしまうことも乱用なのか、線引きも難しい」(厚生労働省の別の担当者)

 乱用の恐れのある成分を禁止したり、医師の処方箋がなければ買えないようにしたりするのも現実的ではない。

「例えばブロンに含まれているリン酸ジヒドロコデインは確かに乱用の恐れがありますが、鎮咳薬として非常に有効な物質。これを禁止すれば薬としての体をなしません。また、すべての薬に処方箋が必要になれば、日中忙しくて病院にいけない人や深夜に急病した人が医療にアクセスすることが困難になる。そのため、国民の薬に対するリテラシーが向上するよう広報に努めることに厚生労働省としては力を入れています」(同前)

 歯がゆい。厚生労働省の担当者たちの顔にはそんな感情がにじむ。

 しかし、近年の厚生労働省の方針には問題があるとの指摘も聞こえてくる。前出の松本医師は語る。

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