「まっ白なうんこが出るんですよ。ブロンの糖衣って白いでしょ。一度に1瓶飲むと量もハンパないから、色が残っちゃうんでしょうね」
都内で面会した会社員の男性A氏(29)は、目の下のクマをこすりながらそう話す。ブロンとは、薬局で市販されているせき止め薬の商品名。けれど、彼はせきに悩まされているわけではない。
「1瓶飲むとけっこうキマる。だるさが吹き飛んで、やる気がでる。正直、これがないと会社に行けないんですよね。だからやめるなんて考えられない」
ブロンの有効成分であるリン酸ジヒドロコデインと塩酸メチルエフェドリン。前者はモルヒネに似た鎮痛作用があり、後者には覚せい剤に似た覚醒作用がある。もちろん麻薬と比べれば効き目は弱いが、大量に摂取すれば同様の影響があらわれる。A氏はブロンを飲むようになって3年、「月に4万円はブロンに費やす」という重度の市販薬乱用者だ。
麻薬や危険ドラッグの陰に隠れがちだが、A氏のような市販薬の乱用は数十年前から存在した。そして現在、問題は根絶されるどころか、ますます根深く社会に蔓延しようとしている。
インターネット上に乱立する体験談をつづったブログやまとめサイト。六本木などのクラブで「気持ちよくなれるクスリ」などといってブロンを配る若者。兆候はあちこちにある。しかし、法的な規制はおろか、警鐘を鳴らす声すら聞こえてこない。
「実態の把握がきわめて困難なためです」
そう語るのは国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦医師。長年にわたり、麻薬を含む薬物依存の問題と向き合ってきた人物だ。
「2016年9月から10月にかけて全国の精神科医療施設における薬物関連精神障害患者の実態を調査しました。対象となった全2262人のうち、覚せい剤の使用経験があったのは1458人なのに対し、ブロンやパブロンゴールドをはじめとした市販薬の乱用は236人。一見すると少ないですが、これは氷山の一角にすぎない」