手術後は切除された組織を観察し、がんのステージや腫瘍が取り切れたかを確認する。このほか、痰や尿などに混ざった細胞を診断する細胞診断、病理解剖も病理医が行う。


 小倉医師が病理医を選んだのは、意外にも消去法からだった。

「医学部5年時に結婚したため、家庭を大切にしながら生涯現役で活躍できる専門は何かと考え、たどり着いた結果でした」

 当直がなく、勤務時間は比較的規則正しい。経験を積めば積むほど、高齢になっても活躍できる。2児の母でもある小倉医師は、病理医なら家庭を持った女性も医師人生を全うできると力説する。日本病理学会によると、全医師数のなかで病理医が占める割合は0.76%になるという。これに対してアメリカは1.6%と、日本の2倍以上の数を誇る。こうしたなか、小倉医師の下では3人もの女性病理医が活躍する。

「標本と話しているような暗いイメージのせいでしょうか」

 しかし病理解剖は減少し、今はがんの時代。患者情報の交換に始まり、他科の医師やスタッフとの連携は欠かせない。

「臨床医とは常に治療方針などを話し合っています。病理診断報告書は、誤解を生むことがないように文章表現力が必要です」

 新しい時代に即した病理医たちの誕生が求められている。(文/山口茜)

小倉加奈子
東京都出身。2002年順天堂大学医学部卒。医学博士。同大学練馬病院病理診断科准教授、臨床検査科長。病理医不足を解消すべく、14年からNPO法人PathCareで高校生対象のセミナー等を開催。日本病理学会認定専門医・研修指導医、日本臨床検査医学会臨床検査専門医