合物のセリ場を見終えた宮原さんが、3時ごろに店に戻ってきた。受発注処理で忙しい最中にもかかわらず、さっそく、私に合物の世界を話してくれた。

「夜干しっていうのがあるんですよ。これがうまいんです。天日干しと違って、夜に干すんです。浜辺で干して海風にあてることで、さらにうまみが増します。今はもう、夜干しをやっているところはほとんどなくなりましたけどね」

 一言で干物と言っても、天日干し、一夜干し、夜干し以外に、灰干しや低温熟成干し、機械干しと、さまざまな干し方がある。灰干しとは、灰の上に布を敷き、塩をした魚と水を吸う特殊紙を交互に重ねて干す方式だ。灰は砂よりも冷たく、熱を持たない。灰が冷温をもたらし、魚から出る水気を吸うことで、干物に独特のうまみをもたらしてくれるのだという。

機械干しはその名の通り、熱風乾燥機を使って一気に乾かし、急速冷凍して出荷するもので、短期間でできあがるのが利点だ。「機械干しは、明日までにこれだけ欲しいというスーパーマーケットからのニーズに応えるための技術です」と、宮原さんの息子で5代目となる裕久さんが教えてくれた。また、低温熟成干しとは、温度管理された倉庫内で、冷風でじっくり乾燥させたものだ。

 続いて宮原社長とともに、セリ場へと向かった。

 セリ場と呼ばれてはいるが、現在は合物も、鮮魚同様に相対取引が行われている。合物のセリ場では、商品が入った箱とサンプルが膝の高さほどの台にのせられ、大卸と仲卸の間で説明と取引が交わされていた。

 ひたすら干物ばかりが延々と並ぶ様を想像していた私は、ここで扱われる品目の多様さに驚いた。とにかく品目が多い。干物はもちろんのこと、かす漬け、こうじ漬け、みそ漬け、みりん漬けなど、味の付けられた魚がたくさんある。味付け済みの魚のほとんどは、切り身で真空パックされたものだ。うなぎの肝の串刺しや、蒲焼もある。

 加工品と比べれば干物はシンプルかと思いきや、そうでもない。例えば、イワシの干物をひとつ取っても、メザシ、丸干しなどさまざま。大羽(おおば)イワシと呼ばれる特に大きなイワシがあることもこの日初めて知った。

 塩の含ませ方にもまた、種類がある。産地の浜で、塩漬けの魚を山積みにしていたことに由来する「山漬け(丘漬け)」と、沖で取れた魚を船上で塩漬けにしてしまう「沖漬け」の二つに大別できると宮原さんは話す。魚を長期間保存する必要があるため、沖漬けのほうが概してしょっぱいとのことだ。ただ、山漬けも沖漬けも、今は少ないらしい。

 塩漬けにした魚は、山漬けでも沖漬けでも、どうしても塩辛くなる。塩分の取りすぎを気にかける人が多くなった現在、塩辛い魚は好まれにくくなったため、塩水に魚を漬けて塩を含ませるようになったとのことだ。

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