宮原さんはセリ場をめぐりながら、「これはうまそうだね」「これなんか、脂がのっている」と私に説明してくれるが、干物も加工品も、私には見分けがつかない。宮原さんは、どうやって目を利かせているのだろう。

「例えば干物なんかだと、すっと脂があがってくるんですよ。ほら、このアジ、背脂がのっているでしょう。こういうアジは、うまいですよ」

 見ると確かに、背骨に沿って一筋の白い脂が立っていた。背脂と聞けば条件反射でラーメンに使われる豚の背脂を想像するが、干物にも背脂がある。また、干物には旬があるとも。

「アジは6~8月、イサキは6~8月、日本近海のサバだったら10~12月。その時期にとれた魚でつくった干物は、うまいんです」

 また、加工品については特に、お客さんが売りやすいものをと心がけているという。スーパーには小分けのしやすいもの、居酒屋や飲食店にはちょっと珍しいものや目玉商品としやすいものと、店としてのおすすめとお客さんのニーズを同時に考えながら、宮原さんは魚を選んでいる。

「岩崎さん、そろそろ、シラスを見に行きましょう。セリが始まりますから」

 合物のセリ場の隣に、シラスのセリ場がある。ほとんどが相対取引となった塩干物の中で、シラスと煮干しとスルメだけは、今もセリが行われている。隣のセリ場へ入ると、仲卸が確認できるよう箱を開けられたシラスとちりめんが、ずらりと並んでいた。

 シラスは、一匹あたりの大きさが小さいものを「こすじ」、大きいものを「あら目」といい、あら目のほうが一般的には安いとのことだ。また最近は、タコやカニの赤ちゃんなどの混合物があるものも、消費者に受け入れられにくくなったとも話す。

「海のものですからね。そういったものが混じっているほうが自然だと思うんですけどね。こすじの(白い)見た目が受け入れられやすいために高く売れますが、私はあら目のほうが好きです。脂がのって、うまいんですよ。ただ、脂がのると黄色っぽくなります」

そう話すと、宮原さんは私に、シラスの山からひとつまみを、次々と私に手渡した。塩気の薄いものと濃いもの、こすじとあら目、確かに味わいが違う。

 周りを見渡すと、仲卸の方々が、繰り返しひとつまみしては、もしゃもしゃと味わう姿があちこちに。誰もが「もしゃもしゃ」している情景は、シラスのセリ場でしか見られないものだろう。

 手やりを使わず、メモ書きを手渡す入札方式でのシラスのセリでは、セリ人と仲買人との間で交わされるやりとりは、メモを渡すだけだ。セリ人の判断も瞬時になされるため、あっけなく終わった。まだ空が暗い6時ごろ、宮原さんとともに、私は仲卸店舗へと戻った。

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