5連覇をかけて全日本選手権に挑む羽生結弦(写真:Getty Images)
5連覇をかけて全日本選手権に挑む羽生結弦(写真:Getty Images)

 12月22日に開幕する全日本フィギュアスケート選手権(大阪府門真市・東和薬品RACTABドーム)に、5連覇をかけて羽生結弦(22)が挑む。

 今季は羽生にとって、これまでにない“挑戦”のシーズンになっている。その挑戦は、スポーツ史を繙いても類を見ないものと言えるだろう。

 昨季、羽生が到達した総合得点の世界記録「330.43」は、今季より1本少ない4回転で生み出した。昨季NHK杯での当時の世界記録「322.40」が現実となる以前は、男子シングルは300点を越えることを目指していた。羽生は破竹の勢いのまま続くISU・グランプリファイナルで330点台に乗せたが、そのペースについて来られる者はいなかった。

 2018年2月の平昌五輪までの折り返し地点となる昨季世界選手権終了時点で、羽生の他に300点を越えた選手は、スペインのハビエル・フェルナンデス(25)のみだった。そのフェルナンデスの自己ベスト「314.93」も、羽生の得点とは15点の開きがあった。世界選手権過去3連覇のレジェンド、カナダのパトリック・チャン(25)は羽生より4回転が少なく技術点で下り、羽生より4回転が多かったアメリカのネイサン・チェン(17)、中国のボーヤン・ジン(19)らハイパー4回転世代の若手は、ジャンプの精度や演技構成点で羽生に後れを取っていた。

 羽生には、4回転でさえ出来栄え点の満点を出せる、極致のジャンプ精度がある。昨季は4回転5本のジャンプ構成を完成させ、男子で計11回あるジャンプでことごとく加点を積み上げ、金字塔を打ち立てた。演技構成点でも満点が見えていた。そのままでも、平昌五輪までリードを保てただろう。

 しかし羽生は現状に満足せず、挑戦することを選んだ。約束された勝利を捨て、進化を求めた。今季から4回転は6本となり、新しい種類となる4ループを構成し、フリーでは体力的に厳しい演技後半に4サルコウ+3トゥループを入れている。現時点では、まだ挑戦の成果を出せていない。全日本選手権でも、上り詰めてきた宇野昌磨(19)との勝敗を分けるジャンプになる。自ら苦境に入り込んでいるかのように見えるが、羽生は「自分にまだ伸びしろがある」ことを喜んでいる。

 羽生の挑戦は、男子シングル全体の進化にも繋がっている。4回転時代を創ってきた先達、共に戦うベテランから若手の仲間達、全員が高みを目指してきた。それを羽生は継承と捉え、フリーの『Hope & Legacy』のLegacyに意を込めた。Hopeには「これまでもらってきた希望」、応援や周りへの感謝の想いを込めているという。いつの世も、大志を抱くアスリートは社会の希望になる。羽生の挑戦を手に汗握って見届けてほしい。(文=Pigeon Post ピジョンポスト 島津愛子)