こっそりと財布のなかを確認したところ、記者の所持金は3000円。「いくら高級なお店といっても、チャーハンならたかが知れたものだろう」などとタカをくくっていたが、注文に至らず退店する可能性すら出てきた。もはや泣きそうだ。

 ようやくご飯物のページを発見。数種類のチャーハンがあったが、もっともベーシックと思われる「チャーシューと海老入りチャーハン」を選択。値段は1600円で、ほっと胸をなでおろす。これまでの店のチャーハンが3杯食べられる値段だが、この雰囲気のなかでは安く感じるから不思議だ。そしてご飯セットは240円。これなら問題なく支払える。

 さっそくスタッフを呼んで注文した。本来ならばこのときが最も緊張する瞬間だったはずだが、金額を把握した安心感のおかげで滞りなく注文を伝えることができた。しかし、

「お飲み物は?」

 再び想定外のトラブルだ。まさかファミレスのように「水」というわけにもいかない。反射的に「ウーロン茶」と注文してしまったが、その後メニューで確認すると値段は800円。チャーハンとライスと合わせると2640円になり、もし席料やサービス料が発生すれば完全に予算オーバーだ。また胃が締め付けられるような緊張が襲ってきた。

 だが、料理の到着とともにそうした雑念はきれいに消え去った。テーブルの上に置かれたチャーハンは一言「美しい」。米は黄金色に炒められ、チャーシュー、ネギ、タマゴに加え、大ぶりなエビがごろごろと入っている。そしてご飯は、普通だ。

 チャーハンをひと匙すくい、口に運ぶ。口のなかが遊園地のようになった。タマゴはふわふわ、ネギはシャキシャキとし、エビは噛もうとした歯を押し返してくるほどプリプリだ。だが、特筆すべきはチャーシューである。しっかりと煮込まれ、肉質は硬い。しかし噛みしめるうちに肉のうま味と甘みがとめどなく染み出す。やがて、こうした個性豊かな具材のうま味が混ざり合い、ひとつの統一された味わいが織りなされる。信じられないほど洗練されている。

 これに果たして、ご飯は合うのか。おそるおそる、口に放り込む。

 良い。チャーハンの味が深いので、そこにご飯が加わっても十分に成立する。だが同時に「この食べ方を続けたくない」という気持ちが強く湧き上がってくる。なぜか。

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